【彼女のヒミツ】
2
中央図書館に午前十時の約束。
しかしそれは口約束したわけではなく、暗黙の内に決まっていたこと。
必ずしも時間内に着かなければいけない、というわけではない。
水谷 玲は、九時半には必ずその場所にいた。館内の一番端、日当たりの良い窓際、木製の椅子に腰掛けている。
小学生から仲良くしている幼馴染みを待っている。玲は待つという行為が好きだった。
待ち合わせの三十分前には、現地に着いていなければ気がすまない性格だと自覚している。
十七年間の人生の中で遅刻は一度もない。
待つ時間は、いつも自宅から持参の小説を読むことにしている。
図書館に居るのに、持参した本を読むというのはおかしいが、玲の持つ大きな手提げ鞄の中には、常に何かしらの小説が入っている。
待ち時間にそれを読むのが癖づいてるだけだった。
現在読み続けてるのは恋愛ものだ。
冴えない女子高生が、金持ちの王子様のような青年と偶然恋に落ちる話。
この手の小説はパターン化されている。
王子様のようなルックスを持つ大金持ちの青年が、なんの変哲もない女子高生と付き合い、波乱の末結婚するという、幾分現実離れした内容だ。
それにどの小説も、主人公は平凡な少女と記しているが、大抵可愛い少女なのだ。
けしてブスと美男子が無理に恋愛するという設定なわけではない。
玲はそんな現代版シンデレラストーリーに胸をときめかせながら、頁をめくっていた。
「お、おはよう」
ある少女がくぐもった口調で、背後から玲に声をかけた。
目元が隠れるほど長い前髪、背中は丸まり、陰気な雰囲気が漂った少女だ。
玲は読んでいた恋愛小説から、声のした方へ振り向いた。彼女に白い歯を見せていった。
「おはよう、さっちゃん」
玲の笑顔の方向に森永里子が立っていた。
中央図書館に午前十時の約束。
しかしそれは口約束したわけではなく、暗黙の内に決まっていたこと。
必ずしも時間内に着かなければいけない、というわけではない。
水谷 玲は、九時半には必ずその場所にいた。館内の一番端、日当たりの良い窓際、木製の椅子に腰掛けている。
小学生から仲良くしている幼馴染みを待っている。玲は待つという行為が好きだった。
待ち合わせの三十分前には、現地に着いていなければ気がすまない性格だと自覚している。
十七年間の人生の中で遅刻は一度もない。
待つ時間は、いつも自宅から持参の小説を読むことにしている。
図書館に居るのに、持参した本を読むというのはおかしいが、玲の持つ大きな手提げ鞄の中には、常に何かしらの小説が入っている。
待ち時間にそれを読むのが癖づいてるだけだった。
現在読み続けてるのは恋愛ものだ。
冴えない女子高生が、金持ちの王子様のような青年と偶然恋に落ちる話。
この手の小説はパターン化されている。
王子様のようなルックスを持つ大金持ちの青年が、なんの変哲もない女子高生と付き合い、波乱の末結婚するという、幾分現実離れした内容だ。
それにどの小説も、主人公は平凡な少女と記しているが、大抵可愛い少女なのだ。
けしてブスと美男子が無理に恋愛するという設定なわけではない。
玲はそんな現代版シンデレラストーリーに胸をときめかせながら、頁をめくっていた。
「お、おはよう」
ある少女がくぐもった口調で、背後から玲に声をかけた。
目元が隠れるほど長い前髪、背中は丸まり、陰気な雰囲気が漂った少女だ。
玲は読んでいた恋愛小説から、声のした方へ振り向いた。彼女に白い歯を見せていった。
「おはよう、さっちゃん」
玲の笑顔の方向に森永里子が立っていた。