【彼女のヒミツ】
里子は玲の正面に周り、木製の椅子に腰かけた。玲は少し休憩する?と小声で訊いたが、彼女はかぶりを振った。

「じゃっ、始めよっか」

二人は手さげ鞄から参考書やノートを取り出すと、夏休みの課題を始めた。

彼女達の時間軸は、ほぼ決まっている。昼までは互いの勉強を消化する。昼ご飯は弁当を持参し、近くの芝生が茂る国立公園で食べる。

昼食を済ますと、中央図書館に戻り、絵本を作る。これが里子と玲の至福の時間だ。物語の内容は二人で考え、文章は玲、絵画は里子と当然のごとく、このような分担作業となっていた。

この絵本作業は約四時間続けられる。解散するのは大体午後四時前後。時々早くなったり遅くなったり、二人のその時の気分による。

「ん~~」

玲は大きく伸びをした。不意に欠伸が襲ってきたので口許を手で隠した。天井まで届く巨大なガラス壁に目をやると、ブラインドの隙間から除く太陽が、真上にきていた。

「さっちゃん、そろそろご飯にしない?」

声をかけられた里子は、おもむろに図書館の壁時計を見た。時刻は十二時五分辺りを指している。

里子は玲の顔を見て、うん、と頷いた。



「こなたはやっぱり会話ができた方がいいと思うんだけどなぁ」

玲が卵焼きを頬張りながら続けた。

「絵本だから、行動だけで示すのはやっぱり無理があるよ。子どもには理解できないんじゃないかな」

二人は国立公園のいつもの場所で、弁当を食べている。二人は大きなポプラ樹の下をお気に入りの場所にしていた。丁度木の葉達が太陽を遮り、暑さをしのいでくれるのだ。彼女らは食事をしながら作製中の絵本のことを話し合っていた。

「で、でも、こなたに言語能力を与えてしまうと、ぴゃーたや他の動物にも能力が必要になるよ」

里子は言った後で、自作のサンドウィッチに手を伸ばす。

「まぁね、そうなると子どもの絵本にしては膨大な文章がいるかな、うーん」玲は箸を口に咥えたまま考え込んでしまった。

二人は現在、戦争中に言葉を覚えた勇敢な雄猫が、人間に戦争を止めるよう懸命に訴える物語を考えている。

こなたというのは主人公の猫の名前で、ぴゃーたは、こなたを慕う子兎。

「と、取り敢えず色んなパターンを考えてみて、削るとこや残すところを考えて、みたらいいと思う」
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