【彼女のヒミツ】
全ての授業が終了すると、礼二はすぐ帰り支度を済ませ、中央図書館に向かった。

今日は水曜日。玲と逢える日なのだ。杉箕橋で会って以来である。

礼二は夕日に染まる彼女のセーラー服姿を思い出していた。

館内に入ると冷房が効いて涼しげだった。礼二は二階にある雑談室を見上げた。

雑談室はテラス状となっており、受付から空室を確認することができる。

右端の室内で、一人で小説を読む玲の姿を見つけた礼二は、彼女のいる雑談室へと足を運んだ。中尾と里子はまだ来てないようだ。

玲と二人きりになる嬉しさと緊張が、あいまじった心境でスライド式のドアを開けた。

入室した礼二の顔をみると、椅子に坐っている玲が「ハローれいじくん」と中尾の口調を真似て、茶目っ気な笑みを浮かべながらいった。

彼女は私服で、チェックのシャツに丈の短いデニムパンツを履いていた。玲は学校から直接図書館に来ることはなく、かならず一度帰宅してから来るのだ。以前理由を訊いたら、彼女は学校と図書館の中間に自宅があるからだといった。

礼二の緊張は玲のおちゃらけた笑顔でほぐされる。鼻でくすっと苦笑いを浮かべ「やぁ」と返事した。鞄を机に置くと玲の向かい側に坐った。

夏休みの最終日、礼二、中尾、里子、玲の四人は水曜日に中央図書館で集る会を結成してから約一ヶ月経過している。

雑談室に集合するのだが、四人で特に何をするわけでもない。

里子と玲は勉強や絵本作りに励んだり、礼二は主に勉強を、時々絵本のアドバイザーになることもある。

中尾は主に絵本作りを手伝ったり、読書したりしている。

だがこれが四人の培った空間であり、みな共に居心地の良さを感じていた。


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