桜の約束
「どういう意味?」
十夜が、笑顔は崩さずに真剣な表情をして…笑顔で真剣ってどんな表情なの…。
まぁとにかく、そんな表情筋の無駄遣いみたいな表情をして、私に問いかけてくる。
「私、守が好き。
だけど、好きになった理由はないし、元々好きだったとしか思えない。
これは、誰の感情なの?
私?
それとも、記憶のある、私?」
「どっちも、君だよ。
どちらも、桜だ」
ううん。
違うのよ。
「違うの。
だって、守に言われたもの。
俺が好きなのは桜であって桜で無いって」
「守が?」
不機嫌そうに、十夜が片眉を上げた。
「うん、そう」
「俺が待っているのは、記憶のある桜だって」
「…ふーん…守が、ねぇ。
多分、守は混乱してるんだよ。多分、ね。守はすごく真面目だから。
今の桜と、記憶のある桜を、別として考えようとしてるんだよ」