桜の約束



プルプル…



なかなか、相手は携帯を取らないらしく、コール音が続く。



もしかしたら、このまま出てくれないかもしれない。

なんて、嫌な予感がよぎる。



『はい。もしもし…』



しばらくコール音が鳴り続け、ようやく。



愛おしい、少女の声がした。



待ち続け、もう聞けないかもしれないと思っていた声。



記憶は、戻っていないだろう。



だから、この電話が鳴ることも、自分から桜にかけることもないだろうと、思っていたのに。



そう、思っていたのに、また。



「電話できた…」



思わず、声に出る。



『はい?』



俺の心情なんて知るはずはないから、俺のつぶやきの意味がわからない桜は意味がわからない、といった風に返事を返す。



「あ、いや、なんでもないです。
あの、何のようですか?」



ああああ!しまったぁぁ。



何のようですか。なんて、固い。



緊張して、敬語のような言葉遣いになっている上に、なんだか電話を嫌がっているような言葉になる。



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