桜の約束




『あ、ごめんなさい。
迷惑、でしたか?』



気を遣われて、桜が謝ってくる。



「いや!桜は悪くなくて!悪いのは俺で…って、あー!もう。俺、何やってんだろ…」



そのまま、頭を抱えてうずくまる。



桜の記憶があった時。



俺は、桜と何を話していたっけ。



どんな風に、話しかけていたっけ。



まるで俺の記憶が失われたように、思い出すことができない。



それは、緊張しているからであって、記憶喪失でもなんでもないんだけど。



『あの、私…守くん…?えっと野上くんの、彼女だったって聞いて…あと、その…携帯の電話の履歴が、全部野上くんで埋まってて…私、早く記憶を戻したいから…行動、しようと思って』



桜は国語力があって、いつもならもっと要領を得た話をする。



けれど、今日は要領を得ない。



桜も、俺と同じで緊張しているのかもしれない。



そう思うと、なんだか少しホッとする。



「えーっと…俺、バカだからあんましよくわかんないけど、わかった!
桜…あぁー。淡井は、自分の記憶を取り戻すために行動してて、自分の記憶に一番関係ありそうな俺に電話をかけてきた、ってことだな?」



俺は、桜と違って元々国語力がない。



だから、むちゃくちゃな日本語になってる気がする。



だけど、それでも、桜の力になりたいから、とかそういうバカげた話だけでがんばる。



< 24 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop