桜の約束
『あ、ごめんなさい。
迷惑、でしたか?』
気を遣われて、桜が謝ってくる。
「いや!桜は悪くなくて!悪いのは俺で…って、あー!もう。俺、何やってんだろ…」
そのまま、頭を抱えてうずくまる。
桜の記憶があった時。
俺は、桜と何を話していたっけ。
どんな風に、話しかけていたっけ。
まるで俺の記憶が失われたように、思い出すことができない。
それは、緊張しているからであって、記憶喪失でもなんでもないんだけど。
『あの、私…守くん…?えっと野上くんの、彼女だったって聞いて…あと、その…携帯の電話の履歴が、全部野上くんで埋まってて…私、早く記憶を戻したいから…行動、しようと思って』
桜は国語力があって、いつもならもっと要領を得た話をする。
けれど、今日は要領を得ない。
桜も、俺と同じで緊張しているのかもしれない。
そう思うと、なんだか少しホッとする。
「えーっと…俺、バカだからあんましよくわかんないけど、わかった!
桜…あぁー。淡井は、自分の記憶を取り戻すために行動してて、自分の記憶に一番関係ありそうな俺に電話をかけてきた、ってことだな?」
俺は、桜と違って元々国語力がない。
だから、むちゃくちゃな日本語になってる気がする。
だけど、それでも、桜の力になりたいから、とかそういうバカげた話だけでがんばる。