桜の約束
そして、俺と桜は、桜の記憶の中でまだ出会っていないことになる。
知らない人に下の名前で呼ばれても不快なだけだろう。
だから、桜桜と連呼しておきながら、今更感満載に淡井、と苗字を呼び直す。
『あの、えっと…はい、そうです』
俺の言ったことを桜は戸惑いがちに肯定する。
『あ、あの…私、まだあなたのこと思い出してなくて』
申し訳なさそうに言うのは、やっぱり申し訳ないからなのだろう。
「あ、うん」
『私、思い出さないといけないんです…よね…?』
言い方に、疑問を感じる。
「ん?…え?」
『私が忘れた中に、大切なことがある。そう、誰かが言ってる気がするんです。だから、思い出さないといけない』
それは、誰に強制されたわけでもないようだったけど、まるで自分の意思ではないような…。