桜の約束



「無理に、思い出す必要はないんじゃねぇの?」



本心は、思い出して欲しい。



でも、俺は、今。

心にもないことを言った。



『でも、…野上くんは、私に記憶を取り戻して欲しいって、思ってるよね?』



「いいや!まったく!…あ、いや、淡井が記憶を取り戻したいと願うんなら、別だけど。望んでないなら、記憶なんていいじゃねぇの?って思っただけで…」



段々、自信がなくなる。



『…私、ここ数年の記憶がないだけで、ちゃんと昔のことは覚えてるの。
それに、ここ数年の記憶って言っても、授業で習ったこととかは、ちゃんとした知識として覚えてる。
お医者さんも、思い出す必要はないって。でも、野上くんは…私の記憶にない人だけど、あなたの記憶に私はいるんでしょう?』



なるほど。



どこか義務的で、桜本人が望んで無いように思えたのは、そのせいだったらしい。



桜自身は、なんの不自由もしていないのだ。



ただ、足りない記憶があって、さらに言えば事故にあい、目覚めて俺がいたから。



だから、俺が気になっているんだろう。



「……なぁ、俺のことが気になったりとか…してる?」



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