桜の約束
『……』
長い沈黙。
桜は話し始めないし、俺もなんだか話し辛い。
『私…記憶を、取り戻したいです。
あなたのことが、気になるから』
ちゃんと、言葉を聞いた。
『だから、野上くん。私の記憶を取り戻すのを、手伝ってくれませんか?』
躊躇いがちなお願い。
こくりと頷いてから、電話越しである事を思い出す。
「あ、あぁ。俺でよければ。手伝うよ」
俺のことが、気になる。
それは、記憶を失った桜に諦めていたことだった。
記憶の無い桜にとって、俺はなんだろうか?
その答えは簡単で、なんでも無い存在なのだ。
だから、元のポジションに戻ることは諦めていたし、桜に他人以上の関心を持ってもらうことさえ諦めていた。
『あ、でも……元彼女の私なんかと、行動して大丈夫、ですか?』
元、彼女。
彼女じゃなく‘‘元”。
それは仕方なの無いことかもしれないけど、戻れないかもしれない過去の記憶を呼んだ。