桜の約束
「守!まだ、ここにいたの?」
すぐに俺のそばまでやって来た亜美が、小走りで来たせいか息を弾ませながら話す。
男子の方、隅田 十夜は眉を寄せて亜美の走った方向を見て、俺に気づくとへにゃりと表情を崩した。
ゆっくりと歩いて俺の方までやってくると、のほほんとした表情をさらに緩める。
「さっきぶりだねぇ。守」
「そうだな」
「ちょ、十夜!あたしが先に守と話してたんだけど⁉︎それから、守!早く答えてよ。一応疑問形式でしょ⁉︎」
「ごめんごめん、亜美。まだ俺はここにいるよ。学校今日は土曜でないし、桜は満開だからな」
俺が答えれば、答えを催促したくせにさみしそうな表情になる亜美。
「___…桜、まだ記憶戻ってないよ」
少し考えるように間を開けて、それからぼそりと言う。
「だよな」
苦笑と一緒に言葉を漏らせば、ますます悲しそうな表情になる。
俺の彼女、桜は数年前に事故で記憶をなくした。
俺と出会った日から、その日までの記憶を全部落とすようにしてなくした桜は、当然のことながら俺のことを忘れた。