桜の約束
溜息
私は、私の覚えていることを思い出して、それからゆっくりと目を開けた。
事故が起こったのは、今から何年前…約4年ぐらい前のことだった。
今、私は高校2年生。
事故は中学2年の秋ごろに起こった。
自室の窓辺に置いた椅子に腰掛けて、窓から見える桜の木を見つめる。
桜の木の下には、まるでいつでもそこにいるかのように彼…野上くんがいた。
遠くてよく見えないけれど、文庫本のようなものを持って座っている。
時折、本から目を離してキョロキョロと辺りを見渡し、落胆するように本に視線を戻す。
その光景は、私が退院してからずっと繰り返されているものだった。
…いや、退院してからしかここを見ていないだけで、もしかしたら随分長いこといるのかもしれない。
何故、そこにいるのか。
なんのために、そこにいるのか。
多分、その目的は…
知らない。
視線を外して、下を向く。
私の手の中には、一冊の日記帳があった。
手書きで、『一言日記』と書かれた日記は、文字通りどのページも一言しか書かれていない。
理由は、覚えていた。
これをつけ始めたのは、小学校卒業の日だから。
まだ、ほんのりと覚えている、私の記憶。