桜の約束
「弱虫呼ばわりも、怖がり呼ばわりも、あたしが許さない!」
ほっそりとした腕が少し震えているのは、十夜の冷たい視線を一身に受けているからだ。
「冗談だよ」
一瞬、さらに笑顔の温度が下がったと思うと、元の温かみを持った笑顔に戻る。
肩を竦め、おどけて見せる十夜には、さっきのような冷たさがない。
「なに怖い顔してるの?守。
桜に会いには行って欲しいけど、分かってるよ、守」
柔らかな、まるで兄のような視線を向けられ、思わず視線を背けた。
「あの日、あの事故を見たのは、守だけだもんねぇ。そして、目覚めて1番に桜と話したのも、守だ」
労わるように、けれど記憶はあの日に戻っていく。
今はまだ、思い出したくない。
考えたくない。
だから、首を振って開きかけた記憶の扉を閉じた。
「今はまだ、もう少し待ってくれ。十夜。いつか必ず、俺が向き合うことだと納得して、ちゃんと桜には会いに行くから」
納得なら、してるけど。
まだ、会いに行く勇気はない。
「うん、それならいんだよ」