桜の約束
今までこの携帯が音を鳴らすことはあまりないから、驚きを隠せない。
まぁ、ここには今私しかいないから、隠す必要は無いのだけど。
わたわたと落ち着きの無い動作で、私は携帯を取り出した。
ディスプレイに表示されているのは、予想通りと言うべきなのか…。
守、つまり野上くんだった。
ボタンを押そうと指を動かして、寸前のところで止める。
私は…
この電話に出てもいいの?
私は、野上くんの彼女だった。
記憶はない。
彼が話したいのは、私じゃなく。
記憶のある、私じゃないの?
そんな迷いが生じる。
けど、携帯は震え続けていて、早く早くと言っているようだった。
私は、意を決してボタンに指を今度こそ伸ばした。
タッチパネル式だから、ペトリと指を画面につけた。