桜の約束
『もしかしたら、記憶は戻らないかもしれない。
だから、記憶が戻っても戻らなくても。君のことを、想うために。初めましてから、始めさせてください』
私のことを、想うために?
私の記憶が戻らなくても、野上くんは…私のことを想ってくれるの?
初めましてから、始めていいの?
私の中にあなたはいなくても、あなたの中に私はいるでしょう?
なのに、いいの?
「…いいんですか?初めましてからで」
知らず、声が震えた。
桜が散るように、涙が落ちる。
自分が今泣いていることに気付いた。
初めましてから、でしかないことが悲しい。
でもそれと同時に、悲しみと同じぐらい、初めましてから始めてもらえることが、嬉しくて仕方ない。
『友達で構わない。
最初からで構わない。
だから、そばにいさせてください』
きっと、私の知らないところであなたは私と幾つもの思い出を、記憶を積み重ねて来たでしょう?
なのに、1からで。
ううん。0からかもしれない。
0からでも、いいの?
そんな心の葛藤があったのに、私の返事は自分に正直なものだった。
「じゃあ、…よろしくお願いします」