桜の約束
桜の木の下には、早朝だったせいか…いや、早朝だったせいで、誰もいない。
気分が落ちる。
「窓から見たらいつでもいるから、今来てもいると思ってたけど…。
流石にいないよね」
短く嘆息して、いつも野上くんが座っている桜の木の下に腰を下ろした。
ウトウトと、穏やか過ぎる春の陽に眠気が誘われる。
眠ってしまいそうになったから、立ち上がった。
2、3歩桜から離れて、風に揺れる枝を見つめる。
しばらくして、誰かの気配を感じた。
くるりと振り向くと、野上くんが早足で歩いて来ているところだった。
私の姿を見つけ、驚いたような顔。
「…さくら…?」
口がほんの少し動いて、私の名前を紡ぐ。
さっきよりも速くなった足で、私に近づいてくる。
でも、すぐに何かに気づいたように足を一瞬止め、今度はゆっくりとした足取りで私に近づいて来た。