桜の約束
あたしの説明を聞いて、あたしが思った以上に十夜に冷たい目を向けられた。
表情も、潰れたみたいな笑顔じゃなく、不機嫌をそのまま表したみたいな無表情。
「亜美、オレはねぇ、今の現状に満足してるんだ。
オレの人生が無駄?
構わないよ。オレが望むのは、守と桜の幸せだけ」
十夜の言うことは、納得できるようでできそうにないものだった。
自分が望むのは、特定の人だけの幸せ。
それは、きっと、周りの見えていない状況なんじゃない?
「盲目的な恋だよね、十夜がしてるのは」
もしくは、自己犠牲?
綺麗だけど、バカみたい。
「は?」
「十夜がさ、桜を好きなのは知ってる。
だから、だよね?守の幸せを願うのは。
桜のおまけ、みたいな」
知ってるよ、十夜が桜を好きなことぐらい。
「なにが言いたいの?亜美は」
冷たい目が、より一層冷たくなる。
それ以上はやめてほしい。
凍え死にそう。
「…んー。桜は、あんたがそこまでしなくてもきっと幸せだよ、ってこと」
「そう」
興味なさそうに返事を返して、先に歩き始めた。