桜の約束




思ったことを、口に出しただけなのに桜は不思議そうな顔をした。



「私は、そんなに野上くんのことが好きだったの?」



……こっちが目が点になりそう。



記憶をなくしたとはいえ、そんなことを言うとは…!



そう。

あんたはね、守が大っ好きなの。


大好きでいてもらわないと困るの。



桜しか見えていない、桜しか好きじゃない守にあたしは今も恋してる。



桜が守を好きじゃないなら、とっちゃうから!
…と、それは置いておいて。



「そりゃー、だいっ好きだったよ。
あー…でも、そういうのはあたしたちに聞くんじゃなくて、思い出しなさいね」



全部、知ってることを教えるのは簡単。



でも、あんたそれを知識にしてどうするの。


あたしたちから教えてもらったことは、記憶じゃなく知識にしかならないでしょう?



あんたに必要なのは思いでで、知識じゃないの。



好きって気持ちを知ってほしい。


好きって事実を知ってほしいわけじゃない。



桜には、あたしの気持ちは伝わらなかったらしく、曖昧に笑われた。



誤魔化された気分。


でも、仕方ない、かな。



桜に記憶はないのだから。



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