体育館12:25~それぞれのみる景色~
一分一秒が長く感じて、ただ座って待っていることなんてできなくて。
いつもより少し早く脈打つ鼓動を感じながら、席を立つ。
なんか飲んで気分を落ち着けよう、なんて思って。
待合室から出ると、むわっと全身を襲う熱気。
さすが夏だ。セミもうるさい。暑い。
だけど、こんなふうにしみじみと思うのもなんだか久しぶりだなと思う。
大学の講義や課題、サークル活動にバイト。
毎日忙しなく動き回っていたからか、夏の暑さを感じる暇もなかった。
近くの自動販売機、いつもの癖でスポーツ飲料を買う。
ついでに彼女の分も、と思うけど。
「そういえば、何が好きなんだ……?」
思えば俺は、彼女の好きなもの、嫌いなもの、ほとんど何も知らない。
赤い自動販売機の前に、呆然と立つことしかできなかった。