体育館12:25~それぞれのみる景色~
「さ、恭也くん……?」
恐る恐るといったふうに後ろからかけられた声は、昨日も電話口で聞いた彼女の声。
俺の名前を呼ぶのにまだ慣れないのか、それとも恥ずかしいのか、前みたいに“佐伯先輩”なんて言おうとしたのがわかった。
だけど、俺の下の名前をちゃんと呼び直す彼女は、やっぱり俺のツボを完璧に押さえている。
ああ、久しぶりだ、この感じ。
無意識に頬がゆるむ。
心臓はいつもより速いスピードで動いているけど、それが心地いい。
締まりのない顔で振り返り、数歩先にいるであろう彼女を見る。
……俺が、余裕な心持ちでいられたのは、この時までだった。
「恭也くん、来るの早いね! まだ20分前だよ?」
高校の時とは違う、敬語の抜けた話し方。
高校時代、何度慶を羨んだことか。
……いやいや、そんなこと今はどうでもいい。