体育館12:25~それぞれのみる景色~

「あの、やっぱり似合ってないかな……?」


 そう言った彼女は、白いスカートの裾を下に引っ張りながら俯いている。


 俺から見えるのは、彼女の頭頂部。


 震える彼女の声に同調するように、俺の中の“何か”も震えた気がした。


 だけど、それに気づかないふりをして。


「……似合うよ、可愛い」


 なんて、必死で平然を装って、そう言った。


 俺の言葉に一気に表情を明るくさせた彼女。


 心の中でもやっと広がった何かを悟られないように、拳を握った。


「……何飲む?」


 そうして絞り出した声、なんて場違いな言葉なんだろう。


 ほかにもっと気の利いたこと言えないのか俺は。


 自分でも呆れるくらい、噛み合わない会話に情けなくなる。


 でも、そんな俺の心の声を知らない彼女は、俺の手に握られたスポーツ飲料を見て。


「恭也くんと同じのにしようかな」


 そう言ってただ笑うんだ。


 結局、彼女の好きなものは知ることができないままだ。


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