体育館12:25~それぞれのみる景色~

「写真、撮り終わった?」


 高校の時から使っているピンク色のケータイをぱたりと閉じた彼女を見て、そう問いかける。


 潮風に揺れる髪を耳にかけた彼女は、照れ臭そうに頷いた。


 ……可愛いなあ。


 心の中でそう呟いて、彼女に左手を差し出した。


 夏真っ盛りとあってか、ビーチには大勢の人がいる。


 小柄な彼女とはぐれてしまわないようにと、手を繋ぎたくて。


 ……違うな、半分は嘘だ。


 俺がただ、彼女と手を繋ぎたいだけ。


 そう言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。


 きっと、また照れて頬を染めるはず。


 そして、俺の1番好きな顔で、笑うんだと思う。


 まだ彼女のことはほとんど知らないままだけど、そういうことは簡単に想像できてしまうから、なんだかおかしい。


 その時、小さな温もりが、控えめに左手に触れた。


 それをそっと握り返して、彼女を見る。


 嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をして、やっぱり彼女は微笑んでいた。


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