体育館12:25~それぞれのみる景色~

「じゃあ、着替えたらここで待ち合わせしようね」


 そんな言葉を残して、彼女は更衣室の中に駆け込んで行った。


 よっぽど泳ぐのが楽しみだったのかな。


 何か月も前から、今日が待ち遠しいって言ってたもんな。


 でも、何のためらいもなく手を離されたのは、少し寂しかった。


「はあ~……」


 女々しすぎる考えに、思わず大きなため息が漏れた。


 彼女と付き合ってからの俺は、いつもこんな感じだ。


「何やってんだ……」


 うな垂れながら、俺も更衣室に向かう。


 あんなに会いたいと思っていた彼女と、今日はまだろくな会話をしていない。


 それに少なからず落ち込みながら、使用されていないロッカーに荷物を突っ込む。


 話したいこと、聞きたいことだってあるはずなのに、全然言葉が出てきてくれない。


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