体育館12:25~それぞれのみる景色~
「心配した……」
目の前に立つ彼女を見て、口から滑るようにして吐き出された言葉は、半ば無意識だった。
紛れもない、自分の声。
だけど、他人の声のようにも聞こえて、不思議な感じがした。
ポロリと零れ落ちた本音。
彼女の身体に回した腕。
俺にすっぽりと包まれてしまうくらいに小さい彼女の肩に、顔を埋める。
「どうしたの……?」
俺のいきなりの行動に驚いたのか、鼓膜を震わせるような心地いい彼女の声は、少しだけ震えていた。
周りには、人が大勢いる。
だから、一組のカップルがこうして浜辺で抱き合っていたって、何も問題ないだろうと思っていたんだけど。
「あの、視線が痛いよ?」
そんな俺の思考は、恥ずかしげに言った彼女の声で、砕かれた。
……俺は別に、見られたって恥ずかしくもなんともないけれど。
むしろ、この子には彼氏がいるんだって、周りに示すことができて好都合だ。
でも、彼女の嫌がることは、したくない。
仕方なしに彼女を離す。