体育館12:25~それぞれのみる景色~

 今日、この近くでは花火大会があるらしい。


 露店も出て、結構大規模なお祭りだという。


 そのせいか、さっきまでにぎわっていたこの浜辺には、俺らくらいしかいない。


 みんな、その祭りに行ったんだろう。


 彼女は花火より、ここで夕日を見ていたいと言った。


 俺は人混みに行くより、彼女とこうしてふたりでいたかったから何の問題もない。


 だけど、それは彼女の本心だったのだろうか。


 陽に照らされる彼女の横顔を見て、そんなことを思う。


「静かだね」


 ぽつり、隣りに座る彼女が言う。


「そうだな」


 俺も、夕日を眺めながら彼女に同調する。


 本当に、静かだ。


 聞こえるのは、浜に寄せる波が砂をさらっていく音。


 髪を撫でるように吹き抜ける風の音。


 ただそれだけだ。


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