体育館12:25~それぞれのみる景色~

「海が青い理由、知ってる?」


 空を見上げたまま、隣りに座る彼女に尋ねる。


 今俺の視界に彼女は映し出されていないけど、なんとなく雰囲気で、彼女は俺の方を見ているのがわかる。


 俺の突然の変な質問。


 小さな子供が母親に聞くような質問だけど、彼女はそういうことにもちゃんと考えて答えようとしてくれる。


「えっと、水面に空が反射してるから、青く見えるんだよね……?」


 たどたどしく言った彼女の言葉。


 当たってる。その通りだ。


 それは水面を覗き込んだら自分が映るのと同じで、ごく当たり前のこと。


 誰もが知っていること。


 だけど、俺の知っている答え、俺の中に浮かぶ答えとは違っていた。


「当たってるけど」


 空から目を離し、彼女を見つめる。


「海ってさ、空に恋してるから、その色に染まっちゃうんだって」


 俺には到底似合わない言葉に自分で小さく笑いながら、前に誰かから聞いたその答えを彼女に告げた。


< 128 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop