体育館12:25~それぞれのみる景色~

 彼女は何も言わずに、空を見上げた。


 今は青じゃなく、赤みがかったきれいな夕焼け色。


 海も、それに染まっている。


 好きなひとの色に染まるそれを見て思い浮かべるのは、隣りにいるきみのこと。


 我ながら本当に女々しいことを考えてるなと思うけど、本当のことだからしょうがない。


 大好きなきみに合わせて、この空と海みたいに、俺も彼女色にきっと気づかないうちに染まってる。


 俺の答えを聞いて、彼女がどう思ったかはわからない。


 少しの不安を抱くけど、ふっと小さく笑う声が聞こえて隣りを見れば、彼女は優しい笑みを浮かべていた。


「恭也くんがそんなこと言うとは思ってなかったなあ」


 くすくすと笑い声を漏らす彼女の言葉に羞恥が芽生えるけど、その表情があまりにも柔らかくて、そんな気持ちは跡形もなく消えた。


「……恭也くんが言った通りなら、私は海だなあ。だって、恭也くん色に染まっちゃってるもん」


 そう言った彼女の言葉に、俺の心臓はまたドクリと音を立てた。


< 129 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop