体育館12:25~それぞれのみる景色~
彼女は何も言わずに、空を見上げた。
今は青じゃなく、赤みがかったきれいな夕焼け色。
海も、それに染まっている。
好きなひとの色に染まるそれを見て思い浮かべるのは、隣りにいるきみのこと。
我ながら本当に女々しいことを考えてるなと思うけど、本当のことだからしょうがない。
大好きなきみに合わせて、この空と海みたいに、俺も彼女色にきっと気づかないうちに染まってる。
俺の答えを聞いて、彼女がどう思ったかはわからない。
少しの不安を抱くけど、ふっと小さく笑う声が聞こえて隣りを見れば、彼女は優しい笑みを浮かべていた。
「恭也くんがそんなこと言うとは思ってなかったなあ」
くすくすと笑い声を漏らす彼女の言葉に羞恥が芽生えるけど、その表情があまりにも柔らかくて、そんな気持ちは跡形もなく消えた。
「……恭也くんが言った通りなら、私は海だなあ。だって、恭也くん色に染まっちゃってるもん」
そう言った彼女の言葉に、俺の心臓はまたドクリと音を立てた。