体育館12:25~それぞれのみる景色~
「……亜希」
「っ!」
頭の上に暖かい感触がした。
そして、初めて彼の口から聞いた私の名前に、鼓動が速くなる。
脈を打つスピードが尋常じゃない。
もしかしたら、私が彼の名前を初めて呼んださっき、彼も今の私と同じ気持ちになったのかな?
そう考えたら、また心臓がドキドキして、目まぐるしいほどの感情の変化についていけなくなる。
頭にのった彼の手。
触れられているってことが、照れ臭くて。
でも、やっぱり幸せ。
「好きだよ。これからもずっと」
聞こえた声に頭を上げて、彼を見つめる。
ああ、幸せ。
私は本当に幸せ者だと思う。
2か月ぶりに聞いた、“好き”の言葉。
頭の中を、その二文字だけがぐるぐる回る。
「あー、クギさされたばっかなのに、ダメだ。……あのさ、店出ない?」
一口も口をつけていないロイヤルミルクティーのカップと、半分まで入ったコーヒーカップ。
それを残したまま、彼はそう言った直後私の手を引いて、私の分までお金を払って店を出た。