体育館12:25~それぞれのみる景色~
だけど、素直になんて教えてあげられない。
初めて宮下さんを見た日から今日まで、俺は彼女を忘れられなかったんだから。
その時から好きだったこと、彼女は知らなくて。
自分の方が先に俺を好きだったと思い込んでいる彼女に、少しだけ意地悪をしたくなった。
「……リコリスは、ちゃんと咲いた?」
俺が言えるのは、これだけだ。
さて、宮下さんはなんて答えるのかな。
鈍感な宮下さんはきっと、なんで俺がこんなことを聞いたのかなんて気づかないだろう。
「え、リコリス、ですか? 今年もきれいに咲きましたよ」
ほらね、やっぱり彼女は気づかない。
なんで俺がリコリスの花が宮下さんのもとにあるのかを。
あの時、俺がとった行動。
それは、彼女の小さな手のひらに、リコリスの生きた茎をのせたっていうこと。
泣き止ませる方法がわからなくて、小さい子をあやす時に飴玉をあげるような、そんな気持ちで持っていたリコリスを彼女に託したんだ。