体育館12:25~それぞれのみる景色~
俺の周りには可愛いヤツなんか腐るほどいるし、相手には困ってなかった。
キレイな女とか、美人なヤツとか、見飽きるくらいにはそんなのが大勢いたんだよ。
だから、いくら校内で噂になっているからって、1人の女ごときに振り回されることなんてないってタカをくくってたんだ。
実際に亜希を見たって、そこら辺の男と同様にそいつを好きになることなんてないって思ってたんだ。
だけど。
ギャラリーの柵から身を乗り出し、キラキラした黒くて大きな目でこっちを見おろすその姿が俺の目に入った瞬間、それが噂で聞いた“宮下亜希”だとわかった瞬間。
……ガラにもなく、心臓が大きく脈打った。
確かに、可愛いと思った。
噂で聞く通り小柄で細身で、小さくて頼りなげな女。
だけど、そのくらいのレベルの女なら割といそうだとも思った。
そう思うのに。
目いっぱい見開いた瞳で、ボールの行方を追う無邪気な姿がどうしようもなく可愛く見えて、目が離せなかった。
初めて亜希をギャラリーに見つけた日からずっと、バスケの合間にギャラリーを見上げては姿を探した。
いつだって亜希はギャラリーの柵のすぐ側にいて、本当に毎日毎日、バスケが始まる時にはそこにいた。
恭也と俺を目当てに、たくさんの女で溢れ返る昼休みのギャラリー。
俺たちの姿をそこから見られるヤツなんて、実際少ないはずだ。
柵付近にいなきゃ、ほとんど見えないと思うから。
でも、亜希は毎日そこにいた。
コートを一望できるその場所をとるために、どれだけ早くからそこにいるんだよって、何度も思った。