体育館12:25~それぞれのみる景色~

 近づきたかった、話してみたいと思った。


 でも、できなかった。


 教室まで会いに行って話しかけることなんて容易いって思ってたのに、ずっとできなかった。


 会って話せば、恭也だけじゃなく俺も見てもらえるんじゃないかって思ってたのにな。


 恭也は女に冷てえし、万が一亜希と恭也が接触したって、恭也はこっぴどくフるだろうし大丈夫だって安心もしてた。


 亜希を誰かにとられる心配なんか、全くと言っていいほどしていなかった。


 周りの目とか、そういうことを気にしてモーションかけることができなかったわけじゃない。


 ただ、俺がヘタレだっただけだ。


 小学生以来、初めて誰かを好きになって。


 何を話せばいいのかも、どう話しかけたらいいのかも、全然わからなかったんだ。


 おまけに、俺が女癖悪いことなんて校内の誰もが知ってるってくらいだったから、会って亜希に幻滅されるのも嫌だった。


 話したい、でも、できない。


 唯一その姿を見ることができるのは、昼休みだけ。


 その目に俺は、映らない。


 もどかしい状況が1年くらい続いて、3年の6月。


 俺は偶然から、亜希と深く関わることになった。


 その時には恭也もいたわけだったけど。



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