体育館12:25~それぞれのみる景色~
亜希が落としていった弁当。
チャンスだと思った。
今まで何もできずにいたけど、きっかけがあれば動けると思った。
……でも、そこに食いついてきたのは俺だけじゃなかった。
今まで女と関わろうとしなかった恭也が珍しくその弁当のことについて触れるから、なんでという疑問を持ちつつ、だけど、そこまで警戒はしてなかった。
亜希はほぼ確実に恭也を好きだろうけど、見るからに奥手そうだったし。
恭也も恭也であんなんだし、2人がくっつくことはないだろうって。
……とんだ誤算になったわけだけど。
それであの日、弁当を届けに行くことになった。
恭也は部活があるから、あとで教室に行けそうだったら顔を出すと言って。
その時の恭也の顔は心なしか残念そうで、なんでそんな顔をするのか不思議だった。
で、結局1人で亜希の教室に向かうことになったわけで。
あの時ばかりは本気で緊張した。
変な汗もかいたし、放課後遅い時間に行くわけだから本人が教室にいるのかすらわからない。
でも、なんとなくいるような気がしてた。
2年1組、亜希の教室。
そこにゆっくりと近づけば、中からは女子の声。
その声が亜希のものかなんて確信はなかったけど、それでも、俺はドアを開けたんだ。
少しでも可能性があるなら、それをみすみす逃すようなマネはできないだろって自分に言い聞かせて。