体育館12:25~それぞれのみる景色~
でも、こうも気づいてもらえないとさすがにもやもやする。
簡単に知られるのはイヤだし、俺が3年も好きだったと知られるのは照れ臭いし。
だけど、あの時から惹かれていた、と。
そう伝えたいわがままな俺がいたりもする。
なぜ俺がリコリスの話をしたのか、ちょっと首を傾げて考える小動物みたいな仕草が、愛らしくて。
赤い目をくるくると動かして、俺の腕にすっぽりおさまっている宮下さんはウサギみたいで。
こんな可愛いとこを間近で見られるようになったんだから、そろそろ教えてあげてもいいのかな。
だいぶ気になっているみたいだし。
……と、思ったんだけど。
突然俺の腕の中で硬直した宮下さん。
何事かと思ってその顔を覗き込むと、彼女は大きな目を真ん丸に見開いていて。
短くなった髪を揺らし、俺をそっと見上げてきた。
「なんで、佐伯先輩、リコリスが家にあるって知ってるんですか……?」
「……!」
鈍感な宮下さんにしては珍しく、と言ったら失礼かもしれないけど。
意外なことに、彼女は俺が言ったさっきの言葉が変だと気が付いたようで。
しきりに瞬きをしながら、俺を見上げてくる。
……しかたないな。
やっぱり俺は、宮下さんには敵わない。
しょうがないから、教えてあげよう。
あの日のことを、リコリスの意味と一緒に。