体育館12:25~それぞれのみる景色~
長い長い、片想いの末。
【海Side】
5歳の頃、俺の隣りの家にはそれはそれは可愛い女の子が住んでいた。
俺のことを『海ちゃん』と呼び、笑顔で駆け寄ってくる姿は今でもはっきり思い出せる。
亜希っていう名前から、俺はその子を『あーちゃん』と呼んでいた。
幼いながらの独占欲っていうやつで、俺だけが呼ぶ、特別なあだ名がほしかったから。
……そう、俺はその子のことが、ずっと好きだった。
両親の仕事の都合で日本を離れることになって、その子とひとつの約束をした。
10年以上経った今でも俺はその約束を覚えているけど、その子はそんなこと、とっくに忘れてしまっているだろう。
だって、今。
彼女には大切で大好きな恋人がいるんだから……。
「みーくん! ぼーっとしてどうしたの? 今日は一緒に帰ろうって約束してたのに、忘れちゃってた?」
窓辺から夕日が差し込む、放課後の教室。
そう言って、俺が肘をついている机からひょっこりと顔をのぞかせた女の子。
……うん、少しびっくりした。
だけど、平静を装う。
俺の顔を覗き込んで、上目遣いでじっと見つめてくる癖、5歳の頃から変わってない。
心配そうに言う目の前のこの女の子は、俺が5歳の時から変わらず好きな宮下亜希。
俺の中でたったひとり、守ってあげたいと思える女の子。