体育館12：25～それぞれのみる景色～

　あー、くっそ。


　渡したくなかったなあ。


　だってこの子、本気で可愛いし。


　まあ、幸せは願ってやらなくもないんだけど、その代わり。


「……帰るけど、少し話してから帰らない？」


　今できる精一杯の笑顔で、亜希を誘う。


　悔しいし、こんくらいいいでしょ？


　それに、なんとなくだけどタイミング的に今な気がした。


　今なら、聞けるんじゃないかって思った。


　これを逃したら、次なんてない気がした。


　確かめたいことがある。


　そして、言えたらいいなと思うこともある。


　俺の言葉に頷いて微笑んだ亜希は、俺の隣りの席に腰をおろした。


　その様子に内心ほっとしてため息が漏れた。