体育館12:25~それぞれのみる景色~

「悔しいな……」


「え?」


 口をついて出た本音。


 そんな俺の呟きに、亜希は不思議そうな顔でじっと俺を見つめてくる。


 初恋の、可愛い女の子。


 その子の目の中に映る自分の顔は、情けないほど歪んでいた。


 ああ、言うなら今だな。


 今しかないんだな。


 そう思った。


「亜希……っ」


 勇気を出してそう言った瞬間、聞こえたのは携帯電話のバイブレーション。


 ……どうやら神様は、ことごとく俺のジャマをするらしい。


 鳴ったのは、亜希のケータイ。


 振動が長い。


 きっと電話だ。


 誰から、なんて聞かなくてもわかる。


 頬を緩ませているその顔を見れば、相手なんてすぐにわかった。


「ごめんね、みーくん。佐伯先輩から電話なんだけど、出てもいいい?」


 聞きたくなかった、亜希の言葉。


 電話の相手は、思ったとおり佐伯センパイ。


 亜希の、彼氏。


 ここで『ダメ』って言ったら、亜希は電話に出るのだろうか、出ないのだろうか。


 その答えを、俺は知っている。


 だけど、そんなこと、ただの幼なじみってポジションの俺は、言っちゃいけない。


 苦しくなるほどの胸の痛みをこらえて、亜希に笑いかけることが、今の俺にできる精一杯だった。





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