体育館12:25~それぞれのみる景色~
深呼吸をして、笑顔で電話に出た亜希。
恋する女の子って感じのその姿に、イライラ。
彼女をこんな顔にさせる、佐伯センパイにもイライラ。
どこかから見てるんじゃないか、ってくらいのタイミングで電話が鳴ったことにもイライラ。
そして亜希が発した最初の一言目、“恭也くん”の言葉にさらに胸のもやもやが大きく広がった。
亜希が口に出したのは、紛れもない、佐伯センパイの下の名前。
いつから名前で呼ぶようになったんだろう。
ああ、そういえば、この前デートしたんだったか。
その時に、名前で呼ぶようになったんだろうか。
なーんて、もんもんと考える。
俺、こんなに心狭かった?
なんで、こんなに苦しいんだろう。
今までも、差を見せ付けられることなんてたくさんあったはずなのに。
物理的に近い距離にいるのは俺。
それなのに、全然届かない。
遠すぎる存在になってしまった、幼なじみ。
“好き”なんて言うには、遅すぎる。
……でも、だけど。
ぐるぐると、いろんな考えや感情がごちゃごちゃに混ざる。
もし、俺が、亜希と佐伯センパイが付き合う前に気持ちを伝えたとしても、亜希の気持ちはぶれなかったと思う。
イタズラに悩ませるだけだったと思う。
……それがわかっていても、一瞬くらい、俺のことだけで頭がいっぱいになって欲しいなんて思う。
これは、卑怯な考えなんだろうか。