体育館12:25~それぞれのみる景色~
「みーくんが、さっき言おうとしてたことなんだけど。みーくんが忘れたかわりなのか、私、思い出したことがあるんだ」
唐突に、彼女が話し出す。
真っ直ぐな瞳で、遠くを見つめて。
返事をせずに顔だけを彼女の方に向ければ、彼女は目線を変えないまま口を開いた。
「私、思い出したよ。みーくんがあの時……」
「え……?」
言った瞬間、到着した電車。
彼女の言葉は、ブレーキの音と風の音に紛れた。
だけど、確かに聞こえた言葉。
立ち尽くす俺に、困ったような表情のキミ。
『乗らないの?』と、目線で促すその仕草に、その表情に、聞き間違えでないことがわかった。
だけど、きっとこれ以上は聞いちゃいけない。
気まずそうな、だけど照れくさそうな顔を見ればわかる。
なんかもう、やっぱりズルい。