体育館12:25~それぞれのみる景色~
これも、ただの偶然なんかじゃない。
さかのぼると、俺が3年前に宮下さんに出会ったことだってそうだ。
俺が“偶然”持っていたリコリスも。
「……先輩。偶然って何回重なれば、必然になると思いますか?」
どこからそんなに湧き出てくるのか不思議なほど、彼女はよく泣く。
だけど、今は俺も泣きたい気分だ。
「そうだなあ、“あの花”だけが知ってるんじゃない?」
俺はまた、ひねくれた返事を彼女に返す。
だけど、そんな俺の言葉に彼女は微笑んで、ただただ泣いた。
ちゃんと言葉にしないこんな俺を、今だけは許してほしい。
だって、俺だって、泣きたいのだから。
「道しるべだったんですね、きっと。“あの花”は。私と佐伯先輩がまた出会うように……」
俺は運命を信じるよ。
リコリスが咲いたのは、6月と言った宮下さん。
俺らが出会うきっかけになったのも、その月で。
「全部、繋がっていたんですね。私たちがまた……」
最後まで言い切ることなく、俺の背中に腕を回した彼女の細い身体をきつく抱きしめた。
ああ、やっぱり彼女には敵わない。
言いたいことは、わかってる。
だから俺も、何も言わない。
リコリスの花言葉。
―――それは、“再会”。
【end】