体育館12:25~それぞれのみる景色~
唇を噛み締めるあたしに、隣りの子はふわりと優しく微笑む。
何もかも知ってるよって、そんな顔。
……ああ、馬鹿だなあ。
損してるって言ったけど、アタシ、ほんとに損してたね。
きっとこの子が言いたかったのは、アタシが考えているのとは別のことなんだろうけど。
変なことにこだわって、大事なことをまた見落とすところだった。
こうして待っててくれた人がいる。
見捨てないでいてくれた人がいる。
アタシの理想、望みは既に実現していたのに、アタシは何を求めていたんだろう。
隣りにずっと、この子はいてくれたのに。
―――ねえ、今日で卒業だね。
ひとりにしてごめん。
一緒にいてくれてありがとう。
暗黙のルールとか、アタシの気持ちとか、そういうのを全て知っているのはきっと、目の前のこの子だけ。
「あのさ」
さっき言いかけた言葉の続きを言うべく、口を開く。
アタシの理想。
それは、“『友達』と笑い合うこと”。
ただ、それだけだった。
隣りにいる彼女は、そんなアタシにまた笑いかけ、それを見て、アタシも笑った。