体育館12:25~それぞれのみる景色~
『聞いて驚け。……さっきまで、亜希と電話してた!』
「はあ!?」
布団をはねのけ、ガバっと起き上がった恭也。
慶の一言にしばし唖然とし、何も言えなくなる。
『羨ましいか? いいだろ~』
羨ましいどころじゃない、そんな気持ちで慶の喉を鳴らす笑い声を聞いていた恭也の目は、さっきと打って変わって見開かれていた。
慶の口から出てきた“亜希”という名前は、好きな子の名前だ。
受験があるからということで、最近はメールすらしていなかった。
いつの間にそんなに仲良くなったのかと、恭也は心の中で思う。
実は、恭也と慶の関係は友人だが、今はライバルとも言える。
さっき名前が上がった女の子に、ふたりは恋をしているから。
その女の子のことを好きだということは、はっきりと口に出して話したことなどなかったふたり。
お互いがお互いの気持ちに気づいてはいたが、それをあえて口に出すこともなかった。
こうしてはっきりと、優劣を見せつけられたのは、恭也にとってはじめてのことだった。
早く電話を終わらせて寝るつもりが一転。
恭也はその話を詳しく聞くしかなくなった。