今さら恋なんて…
そう。
この男。
一緒に飲んでもあたしを送っていく、ってことはしない。
タクシーは呼んでくれたりするけど…絶対一緒には乗らない。
だからこそ、結婚してるんじゃないか、とか、あたしのことからかってるだけなんだ、って思ってた…。
シゲハルから香ってくる爽やかなトワレを感じながら、あたしはぼんやりとそんなことを考えていた。
…ってか、よく考えたら…ここでしか会ったことないんだから…お互いシラフの状態で会ったことないじゃん。
そんなの…変、だよね。普通…。
やっぱり、この人は…あたしのことからかってるだけなんだ…。
「……なぁんだ…」
「ん?何か言ったか?」
「…何でもない」
「……変なやつ」
シゲハルはそっと微笑むと、あたしの黒髪をそっと撫でた。
「……」
急速に冷えていく頭と落ち着きを取り戻していく鼓動に、今さら残念な気持ちになりながら、あたしはしばらくシゲハルの肩にもたれかかっていた…。