今さら恋なんて…



「お待たせ致しました。ホットコーヒーでございます」

コトリ、と静かな音とともに置かれたコーヒー。


お辞儀をして離れていく店員を見送った店長は、

「…で?前園の話したいことって?」

って、訊くと、ニヤリと笑う。


「……恥ずかしいんで、店長の話からお願いします」

あたしは、歯切れ悪く呟きながら、コーヒーをすすった。


「はっ。何だ“恥ずかしい”って。俺とお前の仲だろ?」

店長はカフェに響き渡る様な大きな声で笑うと、お腹を抱えながらそう言う。


「……」


美容師になって初めて勤めたこの店の支店で出会ったのが店長だ。


今の本店に店長が移る時、あたしも連れて行ってくれた。


あたしをここまで育ててくれた人…。


確かに…今さら“恥ずかしい”なんて言う間柄じゃないけど…。



< 184 / 479 >

この作品をシェア

pagetop