今さら恋なんて…
「司さん?」
「…あ。ごめん。“綺麗”なんて久し振りに言われたから…」
あたしは、慌てて止まっていた手を動かし始めた。
「そうなんですか?…でも、司さんの顧客って…男性の方、多いんでしょう?」
「…うん」
「その方達に“綺麗”とか言われません?」
「…言われたこともあるけど…」
「“こともある”?」
「“綺麗”って言われるよりは…“カッコイイ”とか言われる方が多いし、それに…そういうの関係なしにやたら告白される方が多いんだよ」
「…もしかして…あの人もお客さんだったんですか?」
龍哉は、声を潜めながらそう訊いた。
「……」
あたしは、手を動かしながら、こくん、と頷いた。
そして、ため息交じりに、
「あの人のことはスタッフみんな知ってるから大きな声で言ってもいいよ。本人も店に来て、あることないこと言いふらしてたし…」
って付け足した。