今さら恋なんて…
「いいじゃないですか。仕事が楽しいことはいいことですよ」
「そうよ。お客様だって“新しい自分”を発見出来るんだし…」
「それは魅力的ですね。どうしても自分の好みに偏ってしまうでしょうから…」
「そうよー。さて、こんな感じでどう?」
あたしはシザーケースにコームとシザーを戻すと、クロスに付いた髪を簡単に払いながら、龍哉に訊いた。
「……何か全然雰囲気変わりましたね…自分じゃないみたいだ」
鏡の中をじっと見つめた龍哉は、首を左右に動かしながらそう呟いた。
「そうでしょー?せっかく綺麗な目してるんだから、表に出してあげなきゃ。頭の形も綺麗だから、こういう方が似合うわよ」
あたしはチェアーを回して、合わせ鏡で髪型を見せながらそう呟く。