今さら恋なんて…
いつもの龍哉じゃ考えられない様な仕草でグラスをテーブルに置いた龍哉は、
「いきなり返事が来なくなって…俺…仕事が手に着かなくなったんです…」
って、小さな小さな声でそう言った。
「…え…」
「考えられない様なミスをして…“お前おかしいぞ”って先輩に怒られて…このまま司さんに捨てられたら…俺はシーフォートの評判を落としかねないです」
「……龍哉」
「司さんは…もうずっと前から俺の精神安定剤みたいな存在なんです。始めは…俺が司さんを癒す存在になりたい、って思ってたのに…いつからか俺の方が癒されてることに気付いて…。今は…貴方にいつも癒されてるから…俺は俺で居られるんです」
「……」
「本当の俺は…もっとズルい男だと思います。だけど…司さんに側に居て欲しいから、カッコつけて…貴方の目に“イイ男”で映っていたかった。悲しいことも苦しいことも忘れて…俺の隣で笑っていて欲しかったんです」
「…龍哉…」
「……司さん」
「え?」
「ここ、出ましょう。…こんなところでする話じゃない…。送ります。…司さんの家、上がってもいいですか?」
龍哉はあたしの手を強引に引いて、席を立つと居酒屋をあとにした…。