ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
「それは たぶん…
たぶんじゃない、その噂は本当。
事務所の社長が今度はコントラバス欲しい!
ホルン欲しい!
トロンボーン欲しい!
って いつも嘆いてる。
社長、blessってゆー オーケストラ軍団を創りたいんだと思う。
それで自分の夢を叶えたいんだろうな。
まだまだ女性の指揮者は めずらしい世界だし」
「年日を重ねても夢を持ち続けるって素晴らしいですね」
「その夢に付き合わさせられるオレらは めんどくさいけど」
「でも社長のこと尊敬してるんでしょ」
「なんでわかる?」
「だって声が嬉しそうですもん」
「ここまで育てて下さったのは社長だし、他の事務所なら今のオレはいない」
!!!
「きゃあっ!!」
詩音くんがうつ向く あたしの顔を除き込んできた。
たまらず うつ向いてた 顔をあげる。
「そんな悲鳴をあげなくても…。
いつになったらオレの目を見てくれるのか待ってたけど、一向に顔をあげてくれないからさ。
下ばかり見てたら、かわいい顔がもったいない」
………
あの詩音くんから かわいいって…。
お世辞だとわかってても気持ちが舞い上がる。
か… 顔が熱い!
「なんだか いい雰囲気ですね。
オレ、ジャマですか?」
いつも無表情の笛吹くんが眉間に しわ寄せて荒い口調になってる。
「笛吹くんがいないと この空間に耐えられないから、ここに居て!」
「そう…」
なんだか知らないけど笛吹くんの怒りがさらに倍増したような声質だった。
「青柳さん、楽しそうだね」
「ええっ!
そんな余裕ない。
あたし、顔 赤くない?」
「あー、赤い…」
笛吹くん、あたしの顔も見ないで赤いって…。
ところで なんで笛吹くん、怒ってるの…
あたしがうるさくて読書のジャマしたからって そんなに怒(いか)らなくてもいいじゃん。
「琴羽ちゃんに聞いてもらいたいから特別にリサイタルを開きたくなったよ」
「ええ!
そんな もったいないから結構です」
「なんなら一緒にセッションしてみる?
琴羽ちゃんは何か楽器を弾けないの?」
「ムリムリ!
中学の音楽の授業でリコーダーぐらいしか出来ないです。
しかも リコーダーも うまくないし!」
『ガッタァァァ!!!』
びくぅっ!!
沈黙を守り続けてた奏斗さまが椅子から立ち上がった。
やっぱり、あたし うるさかったんだ。
「もう、ピアノはやっていないのか!」
「…っへ?」
「ピアノはやってないのか聞いてるんだ!」
なんで…
なんで 奏斗さまが知ってるの…。
「聞いてるんだっ!」
立ち上がった奏斗さまに ゆっくり 視線を向けると…
真っ直ぐ あたしを見つめる瞳は
とても純粋で
儚く
そして冷たい瞳でもあった。
「やってないです」
どうして 奏斗さまは そんなにも冷たい瞳をするの…。
「奏斗くん、どうしたの…」
詩音くんも いつもクールな奏斗さまの豹変に驚きを隠せない様子。
と、そこへ
「おねえちゃーん」
と 花音が佐藤さんと手をつなぎながら一緒に図書室に迎えに来てくれた。
「おなかすいたー。グラタンたべたーい」
「わかった、お昼ご飯はポテトグラタンに決まり!」
「はい、お昼よ!終了しましょう」
2人の明るさに救われた。
「佐藤さんにノートを提出すれば いいんですか?」
「各先生方がノートないと明日の授業に困るだろうから提出はしなくても大丈夫ですって」
「…っえ」
昨日、今日のこの時間は なんだったんだ。
ただ形だけ…。
「昨日の分も がんばったんだけど〜」
詩音くんも あきれ顔
「おねえちゃん、かのん なまえ かけるようになったよ」
「えー、すごい!」
「かのんちゃんがお勉強したいってことで自分の名前の勉強をしたの」
「佐藤さん、ありがとうございました。
おかげで助かりました」
「いーえ」
「琴羽ちゃんの妹かぁ、佐藤さんのお子さんじゃなかったんですね」
「当たり前でしょ」
「よく考えなくても そーですね」
「いもうと…」
そう、つぶやいた奏斗さまは優しい眼差しで花音を見つめる。
「おねえちゃん、はやく かえろー」
「うん、帰ろう」
もう これ以上 心臓がもたない。
「さあ さあ、行きましょう」
誰よりも 早く図書室を立ち去った。
「あたしたちは自転車通なので…」
「そっか じゃあね、琴羽ちゃん」
「はいっ!さようなら」
詩音くん、奏斗さまと途中の けやき並木で別れを告げる。
もう こんなこと 人生で2度とない。
一生懸命、詩音くんに手をふった。
顔 にやけてないよね。
もう、blessと言葉を交わすことはないだろう。
うさぎのリュックも持ったし忘れ物はない …はず。
「青柳さん、また明日」
でも、なぜか この人の怒りは おさまってない様子。
やはり雑な口調。
「笛吹くん、なんで怒ってるの!」
「怒ってなんかない!」
「やっぱ怒ってるじゃん」
「じゃあな」
「おにーちゃん、ばいばい」
「じゃあな 花音ちゃん、気を付けてな」
ええー!
花音には笑顔で手を振ってる!
なんて感情のわかりやすいお人!
「あたしと花音、態度がまったく違うじゃん」
「青柳さんだってオレとblessとじゃ態度 違うだろ」
「え?」
「また明日」
と笛吹くんはバイクを走らせ行ってしまった。
なんだったんだ。
歯切れがよくないってのはこのことかも…。
たぶんじゃない、その噂は本当。
事務所の社長が今度はコントラバス欲しい!
ホルン欲しい!
トロンボーン欲しい!
って いつも嘆いてる。
社長、blessってゆー オーケストラ軍団を創りたいんだと思う。
それで自分の夢を叶えたいんだろうな。
まだまだ女性の指揮者は めずらしい世界だし」
「年日を重ねても夢を持ち続けるって素晴らしいですね」
「その夢に付き合わさせられるオレらは めんどくさいけど」
「でも社長のこと尊敬してるんでしょ」
「なんでわかる?」
「だって声が嬉しそうですもん」
「ここまで育てて下さったのは社長だし、他の事務所なら今のオレはいない」
!!!
「きゃあっ!!」
詩音くんがうつ向く あたしの顔を除き込んできた。
たまらず うつ向いてた 顔をあげる。
「そんな悲鳴をあげなくても…。
いつになったらオレの目を見てくれるのか待ってたけど、一向に顔をあげてくれないからさ。
下ばかり見てたら、かわいい顔がもったいない」
………
あの詩音くんから かわいいって…。
お世辞だとわかってても気持ちが舞い上がる。
か… 顔が熱い!
「なんだか いい雰囲気ですね。
オレ、ジャマですか?」
いつも無表情の笛吹くんが眉間に しわ寄せて荒い口調になってる。
「笛吹くんがいないと この空間に耐えられないから、ここに居て!」
「そう…」
なんだか知らないけど笛吹くんの怒りがさらに倍増したような声質だった。
「青柳さん、楽しそうだね」
「ええっ!
そんな余裕ない。
あたし、顔 赤くない?」
「あー、赤い…」
笛吹くん、あたしの顔も見ないで赤いって…。
ところで なんで笛吹くん、怒ってるの…
あたしがうるさくて読書のジャマしたからって そんなに怒(いか)らなくてもいいじゃん。
「琴羽ちゃんに聞いてもらいたいから特別にリサイタルを開きたくなったよ」
「ええ!
そんな もったいないから結構です」
「なんなら一緒にセッションしてみる?
琴羽ちゃんは何か楽器を弾けないの?」
「ムリムリ!
中学の音楽の授業でリコーダーぐらいしか出来ないです。
しかも リコーダーも うまくないし!」
『ガッタァァァ!!!』
びくぅっ!!
沈黙を守り続けてた奏斗さまが椅子から立ち上がった。
やっぱり、あたし うるさかったんだ。
「もう、ピアノはやっていないのか!」
「…っへ?」
「ピアノはやってないのか聞いてるんだ!」
なんで…
なんで 奏斗さまが知ってるの…。
「聞いてるんだっ!」
立ち上がった奏斗さまに ゆっくり 視線を向けると…
真っ直ぐ あたしを見つめる瞳は
とても純粋で
儚く
そして冷たい瞳でもあった。
「やってないです」
どうして 奏斗さまは そんなにも冷たい瞳をするの…。
「奏斗くん、どうしたの…」
詩音くんも いつもクールな奏斗さまの豹変に驚きを隠せない様子。
と、そこへ
「おねえちゃーん」
と 花音が佐藤さんと手をつなぎながら一緒に図書室に迎えに来てくれた。
「おなかすいたー。グラタンたべたーい」
「わかった、お昼ご飯はポテトグラタンに決まり!」
「はい、お昼よ!終了しましょう」
2人の明るさに救われた。
「佐藤さんにノートを提出すれば いいんですか?」
「各先生方がノートないと明日の授業に困るだろうから提出はしなくても大丈夫ですって」
「…っえ」
昨日、今日のこの時間は なんだったんだ。
ただ形だけ…。
「昨日の分も がんばったんだけど〜」
詩音くんも あきれ顔
「おねえちゃん、かのん なまえ かけるようになったよ」
「えー、すごい!」
「かのんちゃんがお勉強したいってことで自分の名前の勉強をしたの」
「佐藤さん、ありがとうございました。
おかげで助かりました」
「いーえ」
「琴羽ちゃんの妹かぁ、佐藤さんのお子さんじゃなかったんですね」
「当たり前でしょ」
「よく考えなくても そーですね」
「いもうと…」
そう、つぶやいた奏斗さまは優しい眼差しで花音を見つめる。
「おねえちゃん、はやく かえろー」
「うん、帰ろう」
もう これ以上 心臓がもたない。
「さあ さあ、行きましょう」
誰よりも 早く図書室を立ち去った。
「あたしたちは自転車通なので…」
「そっか じゃあね、琴羽ちゃん」
「はいっ!さようなら」
詩音くん、奏斗さまと途中の けやき並木で別れを告げる。
もう こんなこと 人生で2度とない。
一生懸命、詩音くんに手をふった。
顔 にやけてないよね。
もう、blessと言葉を交わすことはないだろう。
うさぎのリュックも持ったし忘れ物はない …はず。
「青柳さん、また明日」
でも、なぜか この人の怒りは おさまってない様子。
やはり雑な口調。
「笛吹くん、なんで怒ってるの!」
「怒ってなんかない!」
「やっぱ怒ってるじゃん」
「じゃあな」
「おにーちゃん、ばいばい」
「じゃあな 花音ちゃん、気を付けてな」
ええー!
花音には笑顔で手を振ってる!
なんて感情のわかりやすいお人!
「あたしと花音、態度がまったく違うじゃん」
「青柳さんだってオレとblessとじゃ態度 違うだろ」
「え?」
「また明日」
と笛吹くんはバイクを走らせ行ってしまった。
なんだったんだ。
歯切れがよくないってのはこのことかも…。