ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
「ええ、かまいませんよ。
むしろ こちらとしてもずっと居てもらいたいぐらいです」
お父さん
新婚生活ごっこを味わいたいって顔に書いてある!
「栃木から来る おばあちゃんが使ってる1階の部屋が空いてるので そちらを使用して下さい」
「かしこまりました」
話が勝手に進んでる。
「それでは、早速ですが夕食の準備を致しますね。
急がねば約束の時間になってしまいます」
「あの〜、律井さん」
「お嬢さま、なんでございますか?」
「律井さんの方がお姉さんなんですし年下のあたしに敬語は使わないで下さい」
「しかし、それは…
家政婦としての心得ですし…」
「我が家が律井さんのお給料を支払ってるわけじゃないんですし、変な違和感を覚えるのでお嬢さまってゆうのもやめて下さい」
「さようでございますか」
「それ!
やめて下さい。
それから あたしは琴羽です。
んで、そこでお昼寝してるのは妹の花音です」
「はあ…、
急に言葉使いに気をつけてと申されましても、いきなり直せるものではないので時間がかかってしまうかもしれません」
「律井さん」
「はい、ご主人さま何でしょうか」
「私のこともご主人ではなく亮太と呼んで下さい」
「かしこ…
わかりました。
亮太さん」
お父さん、すっごい嬉しそうな顔してる。
「家の使いかってがわからないでしょうから、私も夕食作りに参加させてもらおうかな」
「でも…」
「遠慮なさらずに さあさあ」
「そーですね。
今日は、そうさせていただきます」
まじで意味わかんない。
先ほど 渡されたマップをしみじみ見てみるが
依頼人の意図がわからない。
こんなことをして何のメリットがあるんだろ…。
ただ この音楽スクールに行けばおのずと答えが出るかもしれない。
隣駅まで自転車で10分。
美味しい ご飯 食べれば体力も回復するかも。
ところでスクールで何を学ぶんだろ。
確か歌姫と呼ばれる あのアーティストも ここの出身のはず。
ボイストレーニングじゃないよね…。
あたし 歌は うたえない。
人前で歌うことを想像し、顔が熱くなる。
とにかく何かしてないと負の要素ばかりを考えてしまう。
夕食が出来るまで勉強をしてよう。
「なんでキッチンに立ってるんですか?」
「決まりですので」
ホットプレートのお好み焼きが出来あがったころ、律井さんはキッチンに行ってしまった。
「勤務時間内にご家族と一緒に食事をしてはなりません」
「ですから律井さんに家がお金を払ってるわけじゃないので いいじゃないですか」
「律井さん、せっかく一緒に作ったお好み焼きが冷めてしまうし、人に見られながら食べるのは恥ずかしいから一緒に食べましょう」
お父さんから まともなことが
「おねえさん おなか すいたー。
はやく たべよー」
さすが4才児にして空気が読める我が妹!
花音の後押しもあり
「…はい、お言葉に甘えて そうさせていただきます」
楽しみにしてた いかのお好み焼き
これから待ち受ける 訳のわからない試練のために緊張してるのか 味がわからなかった。
なんだか この空間に入るのに ためらう。
勇気を振り絞りビルの中に入り
受付の女性の案内して下さった個室に入ると
「初めまして、こんばんは」
「こんばんは…」
一見、優しい趣だがメガネの奥の瞳は とても気難しそうな印象をうけた。
そして部屋にはピアノ…。
どうやらピアノを学ぶのだけは理解出来た。
「3ヶ月間、よろしくね」
「こちらこそ よろしくお願いします」
訳がわからないけど 取り合えずお辞儀をする。
……
3ヶ月間…
さっき律井さんも3ヶ月間って…
3ヶ月後に 何があるのかな…。
「時間もないので早速 始めましょう。
ピアノの経験は?」
「…4年間ですが、ここ1年半はピアノに触れてないです」
「そう、今日のレッスンはハノンをしましょう。
ハノンをみっちりやるのは退屈かもしれませんが やはり基本は大事ですので」
とハノンの楽譜が用意されピアノの前に座る。
久しぶりのピアノ
ピアノを前にすると
封印してたピアノと歩んできた4年間の記憶と想い出がよみがえりそう。
「ハノンを1〜60番まで練習したら、1課題を1分で弾いたとしても、ハノンだけで1時間もかかってしまいます。
私が選りすぐったハノンを重点的にしましょう」
えっ!
……うそ
あんなに夢中になってたピアノ…。
指が弱いってゆーか
指が動かない!
鍵盤が重い!
ハノン第一部
1.2.6.8
ハノン第二部
38.39.40
ハノン第三部
44.46.50
ハノン1番
5本の指を同程度に鍛える基礎。
ついつい機械的に 弾きがちなハノン
ハノンを弾くときは
バッハやモーツアルトを意識しながら音に意識を向ける。
音楽的な音を作るための基礎練習という意識を持って 同じ音階を弾くときも
レガート(滑らか)に聞こえるように 音に意識を向けて練習すれば
意識一つで練習効率もグンと高まる。
ハノン2番
5本の指を同程度に鍛える基礎。
慣れるまでは 指使いに戸惑う。
なので これは練習で慣れてくしかない。
ハノン6番
小指を鍛える。
5本の指で 鍵盤と鍵盤の間の感覚を正確に覚える基礎。
鍵盤を見なくても弾くためには 鍵盤の感覚を正確に覚えないといけない。
曖昧なままだと この6番は 指が絡まる。
ハノン8番
全5指のたいへん重要な練習 主に ポピュラー曲に 応用が利く。
ポピュラー曲では 左手の伴奏で この形の発展系をよく見かける。
奇麗な音に意識を置いて練習する。
ハノン38番 音階のための予備練習ピアノの基本。
かなり重要。
ソナチネなどに すぐ応用が利くので 熱心に取り組まないと。
ソナチネだと 132 (ALLEGRO) の速さは要求される 最低でも この速さには慣れないと。
ここを熱心に練習すれば 左手もクルクル動くようになる。
メトロノームをかけながら自分の限界に挑戦する。
でも だからといって 音をおろそかにして 荒い演奏の癖をつけては意味がない。
薬指の出す音に 特に注意する。
ハノン39番 音階の練習
見た目は 38番と重複するように思われるが
こちらは 黒鍵も入っている分 余計に厄介。
楽譜を見ながら曲を弾くときに 変ホ長調など どこと どこが黒鍵で……
といちいち意識しなくても パッと楽譜を見ただけで 無意識に指が黒鍵に行くように
黒鍵の位置を感覚的に覚えさせなくては。
ハノン40番 半音階半音階は ポピュラーでも クラシックでも よく見かける形。
楽譜を見ると あまり気が進まないが 指番号だけ覚えておいた方が良い。
ハノン44番 もっともむずかしい技巧のための高度な予備練習指替えの基本。
「結婚行進曲」(メンデルスゾーン) 「華麗なる大円舞曲」 などの 同音連打のときに この指替えが出てくる。
同音連打で 音が抜けてしまうのはなぜ?
前の指がモタモタして 鍵盤が戻る前に 次の指が来てるから
音が出ない!
前の指を もっと素早く逃がすこと!
ハノン46番 全5指のためのトリルの練習
トリルの練習と書いてあるが 弱点の指の集中治療に もってこい。
指が弱い人は 弾きにくいと感じた部分を何度も繰り返してみる。
どの指でも問題なく弾けるようになったら
楽譜の記述通りトリルの練習(速度と音)に意識を向ける。
ハノン50番 レガートの三度
「人形の夢と目覚め」など、クラシックでも、ポピュラーでも、よく見かける形。
音の大きさ、つながりが綺麗に揃うように、音に意識を向ける。
第3関節(指の根本)が非常に鍛えられ、指の根本が安定する。
「ふぅ〜
これで3ヶ月後、大丈夫かしら」
ハノンを始めて30分
基礎をやる前と後じゃ かなり指が滑らかになったと思うけど
やはり以前のようには うまく いかない。
先生が気を落とすのも無理がない。
「今日は 終了です。
楽譜を持ち帰って 毎日 基礎を怠らず行って下さい」
「…はい」
「ある方様の ご紹介で急きょ入会されたので本日は たまたま私になりましたが来週も私になるか、違う先生になるのかは わかりません」
「はあ…」
来週も来なくちゃいけないのか…。
「ご都合があるときはスクールに ご連絡して下さい。
曜日変更等を承っております」
「わかりました」
ビルから出ると初夏とはいえ夜風が冷たかった。
そして蒼い光を放ち あやしく輝く月が
消沈した あたしの心の中にまで その光が入り込んでくるようだった。
あんなに練習してたピアノ
これだけは人に負けたくない!
負けられない!
と思ってた、自信があったピアノ…
だったのに…。
「若い女が夜の人気(ひとけ)のない公園にいたのでは危ないだろ」
キィキィ
とブランコを軽くこいでいた足が止まる。
やだ
ナンパ…
それとも あたしの微々たる お小遣い取られちゃう!
やっぱり夜の公園は危ないんだ!
いつも花音と遊びに来る、家の近くの小さな分譲地 公園だったから油断してた。
落ち着け、逃げ足なら自信がある…。
人生初の経験に同様する。
むしろ こちらとしてもずっと居てもらいたいぐらいです」
お父さん
新婚生活ごっこを味わいたいって顔に書いてある!
「栃木から来る おばあちゃんが使ってる1階の部屋が空いてるので そちらを使用して下さい」
「かしこまりました」
話が勝手に進んでる。
「それでは、早速ですが夕食の準備を致しますね。
急がねば約束の時間になってしまいます」
「あの〜、律井さん」
「お嬢さま、なんでございますか?」
「律井さんの方がお姉さんなんですし年下のあたしに敬語は使わないで下さい」
「しかし、それは…
家政婦としての心得ですし…」
「我が家が律井さんのお給料を支払ってるわけじゃないんですし、変な違和感を覚えるのでお嬢さまってゆうのもやめて下さい」
「さようでございますか」
「それ!
やめて下さい。
それから あたしは琴羽です。
んで、そこでお昼寝してるのは妹の花音です」
「はあ…、
急に言葉使いに気をつけてと申されましても、いきなり直せるものではないので時間がかかってしまうかもしれません」
「律井さん」
「はい、ご主人さま何でしょうか」
「私のこともご主人ではなく亮太と呼んで下さい」
「かしこ…
わかりました。
亮太さん」
お父さん、すっごい嬉しそうな顔してる。
「家の使いかってがわからないでしょうから、私も夕食作りに参加させてもらおうかな」
「でも…」
「遠慮なさらずに さあさあ」
「そーですね。
今日は、そうさせていただきます」
まじで意味わかんない。
先ほど 渡されたマップをしみじみ見てみるが
依頼人の意図がわからない。
こんなことをして何のメリットがあるんだろ…。
ただ この音楽スクールに行けばおのずと答えが出るかもしれない。
隣駅まで自転車で10分。
美味しい ご飯 食べれば体力も回復するかも。
ところでスクールで何を学ぶんだろ。
確か歌姫と呼ばれる あのアーティストも ここの出身のはず。
ボイストレーニングじゃないよね…。
あたし 歌は うたえない。
人前で歌うことを想像し、顔が熱くなる。
とにかく何かしてないと負の要素ばかりを考えてしまう。
夕食が出来るまで勉強をしてよう。
「なんでキッチンに立ってるんですか?」
「決まりですので」
ホットプレートのお好み焼きが出来あがったころ、律井さんはキッチンに行ってしまった。
「勤務時間内にご家族と一緒に食事をしてはなりません」
「ですから律井さんに家がお金を払ってるわけじゃないので いいじゃないですか」
「律井さん、せっかく一緒に作ったお好み焼きが冷めてしまうし、人に見られながら食べるのは恥ずかしいから一緒に食べましょう」
お父さんから まともなことが
「おねえさん おなか すいたー。
はやく たべよー」
さすが4才児にして空気が読める我が妹!
花音の後押しもあり
「…はい、お言葉に甘えて そうさせていただきます」
楽しみにしてた いかのお好み焼き
これから待ち受ける 訳のわからない試練のために緊張してるのか 味がわからなかった。
なんだか この空間に入るのに ためらう。
勇気を振り絞りビルの中に入り
受付の女性の案内して下さった個室に入ると
「初めまして、こんばんは」
「こんばんは…」
一見、優しい趣だがメガネの奥の瞳は とても気難しそうな印象をうけた。
そして部屋にはピアノ…。
どうやらピアノを学ぶのだけは理解出来た。
「3ヶ月間、よろしくね」
「こちらこそ よろしくお願いします」
訳がわからないけど 取り合えずお辞儀をする。
……
3ヶ月間…
さっき律井さんも3ヶ月間って…
3ヶ月後に 何があるのかな…。
「時間もないので早速 始めましょう。
ピアノの経験は?」
「…4年間ですが、ここ1年半はピアノに触れてないです」
「そう、今日のレッスンはハノンをしましょう。
ハノンをみっちりやるのは退屈かもしれませんが やはり基本は大事ですので」
とハノンの楽譜が用意されピアノの前に座る。
久しぶりのピアノ
ピアノを前にすると
封印してたピアノと歩んできた4年間の記憶と想い出がよみがえりそう。
「ハノンを1〜60番まで練習したら、1課題を1分で弾いたとしても、ハノンだけで1時間もかかってしまいます。
私が選りすぐったハノンを重点的にしましょう」
えっ!
……うそ
あんなに夢中になってたピアノ…。
指が弱いってゆーか
指が動かない!
鍵盤が重い!
ハノン第一部
1.2.6.8
ハノン第二部
38.39.40
ハノン第三部
44.46.50
ハノン1番
5本の指を同程度に鍛える基礎。
ついつい機械的に 弾きがちなハノン
ハノンを弾くときは
バッハやモーツアルトを意識しながら音に意識を向ける。
音楽的な音を作るための基礎練習という意識を持って 同じ音階を弾くときも
レガート(滑らか)に聞こえるように 音に意識を向けて練習すれば
意識一つで練習効率もグンと高まる。
ハノン2番
5本の指を同程度に鍛える基礎。
慣れるまでは 指使いに戸惑う。
なので これは練習で慣れてくしかない。
ハノン6番
小指を鍛える。
5本の指で 鍵盤と鍵盤の間の感覚を正確に覚える基礎。
鍵盤を見なくても弾くためには 鍵盤の感覚を正確に覚えないといけない。
曖昧なままだと この6番は 指が絡まる。
ハノン8番
全5指のたいへん重要な練習 主に ポピュラー曲に 応用が利く。
ポピュラー曲では 左手の伴奏で この形の発展系をよく見かける。
奇麗な音に意識を置いて練習する。
ハノン38番 音階のための予備練習ピアノの基本。
かなり重要。
ソナチネなどに すぐ応用が利くので 熱心に取り組まないと。
ソナチネだと 132 (ALLEGRO) の速さは要求される 最低でも この速さには慣れないと。
ここを熱心に練習すれば 左手もクルクル動くようになる。
メトロノームをかけながら自分の限界に挑戦する。
でも だからといって 音をおろそかにして 荒い演奏の癖をつけては意味がない。
薬指の出す音に 特に注意する。
ハノン39番 音階の練習
見た目は 38番と重複するように思われるが
こちらは 黒鍵も入っている分 余計に厄介。
楽譜を見ながら曲を弾くときに 変ホ長調など どこと どこが黒鍵で……
といちいち意識しなくても パッと楽譜を見ただけで 無意識に指が黒鍵に行くように
黒鍵の位置を感覚的に覚えさせなくては。
ハノン40番 半音階半音階は ポピュラーでも クラシックでも よく見かける形。
楽譜を見ると あまり気が進まないが 指番号だけ覚えておいた方が良い。
ハノン44番 もっともむずかしい技巧のための高度な予備練習指替えの基本。
「結婚行進曲」(メンデルスゾーン) 「華麗なる大円舞曲」 などの 同音連打のときに この指替えが出てくる。
同音連打で 音が抜けてしまうのはなぜ?
前の指がモタモタして 鍵盤が戻る前に 次の指が来てるから
音が出ない!
前の指を もっと素早く逃がすこと!
ハノン46番 全5指のためのトリルの練習
トリルの練習と書いてあるが 弱点の指の集中治療に もってこい。
指が弱い人は 弾きにくいと感じた部分を何度も繰り返してみる。
どの指でも問題なく弾けるようになったら
楽譜の記述通りトリルの練習(速度と音)に意識を向ける。
ハノン50番 レガートの三度
「人形の夢と目覚め」など、クラシックでも、ポピュラーでも、よく見かける形。
音の大きさ、つながりが綺麗に揃うように、音に意識を向ける。
第3関節(指の根本)が非常に鍛えられ、指の根本が安定する。
「ふぅ〜
これで3ヶ月後、大丈夫かしら」
ハノンを始めて30分
基礎をやる前と後じゃ かなり指が滑らかになったと思うけど
やはり以前のようには うまく いかない。
先生が気を落とすのも無理がない。
「今日は 終了です。
楽譜を持ち帰って 毎日 基礎を怠らず行って下さい」
「…はい」
「ある方様の ご紹介で急きょ入会されたので本日は たまたま私になりましたが来週も私になるか、違う先生になるのかは わかりません」
「はあ…」
来週も来なくちゃいけないのか…。
「ご都合があるときはスクールに ご連絡して下さい。
曜日変更等を承っております」
「わかりました」
ビルから出ると初夏とはいえ夜風が冷たかった。
そして蒼い光を放ち あやしく輝く月が
消沈した あたしの心の中にまで その光が入り込んでくるようだった。
あんなに練習してたピアノ
これだけは人に負けたくない!
負けられない!
と思ってた、自信があったピアノ…
だったのに…。
「若い女が夜の人気(ひとけ)のない公園にいたのでは危ないだろ」
キィキィ
とブランコを軽くこいでいた足が止まる。
やだ
ナンパ…
それとも あたしの微々たる お小遣い取られちゃう!
やっぱり夜の公園は危ないんだ!
いつも花音と遊びに来る、家の近くの小さな分譲地 公園だったから油断してた。
落ち着け、逃げ足なら自信がある…。
人生初の経験に同様する。