ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
おばあちゃんも歳だし

おばあちゃんには、おばあちゃんの家庭があるから

心配かけられない。

うまく誤魔化さないと……


「ところで 田植えは終わったの?」


「ああ、しっかり根付いてきて、けっこー育ってきたぞ」


「そっか、新米 楽しみ〜。

って まだまだ先か」


「この歳にもなっと あっちゅー間に季節が変わっちまうもんだ」


「えー
そーなの?」


「そのうちそーなっから。
おらみたいにな!
あはははは!」


「あはははは!」


たぶん おばあちゃんの言葉に理解してないだろうけど

豪快な笑いにつられ花音も笑う。



「ねえねえ
ばぁば、いつまでいるの?」


「あさってまで居るつもりさ。

今の時期は庭の草が伸びて伸びて!

おらは 猫めがくそしたあとを追いかけ回して草 むしってんだ!

ここにも猫の うんこ あらぁ!

こっちにも猫の うんこ あらぁ!
ってな」


「おばあちゃん家、また猫飼ったの?」


「飼ったつーか どっかから来た子猫が居座っちまったんだ。

3匹もいっと にぎやかだし家中、ひっちゃかめっちゃかに かき回して 障子なんざぁ ぼっろぼろさ」


「にゃんこに
あいたい!」


「いつでも いいから遊びに来いや」


「うんっ!」


「花音は まだ おばあちゃん家に行ったことがなかったよね?」


「ばぁばのいえ?」


「そう、電車にごとごと揺られて行くんだよ」


「でんしゃ、のりたい!」


「あたしが夏休みに
お盆に行こう」


「いくっ!いくー!」



花音とのちょっとした約束

このときは、これから待ち受ける試練を知らず

花音を傷つけることになってしまったんだ。



「そーいえばよぉ、猫で思い出したが

このめぇ じいさま、猫めがあんまりにも かわいいんで抱っこさしよーとして かがんだら

その拍子にぎっくり腰になっちまったんだ!

あはははは!!」




おじーちゃーーん!


猫を大事にかわいがる前に自分を大事にしてー!



しかも、おばあちゃん 笑い事じゃないっしょ!



「それで おじいちゃん、大丈夫なの?」


「今は、だいじだぁ。

良くなってきたし ちょっくら東京さ行ってくっからって来たんだ。

いやぁ 今度、榎木さんたちとバス旅行に行くことにしたんだけどよ、

そんときに着てく おしゃらくな服が田舎じゃ売ってねぇから

んじゃ東京ならどーだんべってことで来てみたんだ!

やっぱ東京なら ハイカラな服がたくさんあっぺな?」



おいーっ!!


東京に来た理由は それですかい!

うちら姉妹がかわいいからじゃなかったんかいっ!!



「東京と栃木、さほど かわんねぇって!」


「そっか?」


「考えてみれや、過疎化が進んでる地域なんだし

それに合わせた商品を取り揃えてないと店つぶれっぺ?」


「おお、そうだな」


「意外にも栃木の方がおしゃれかもよ」



無意識のうちに あたし、なまってっぺな!


栃木弁、強烈だし

栃木県人のDNAが騒ぐのかも。



いつものごとく、食べ終わった食器を片付けていたら



「お皿の後片付けは、おらに任せとけ!

そんで琴羽は勉強でもしろや」


「いいの?」


「当たりめぇだろ。

洗濯もん こむのも、夕飯も心配すんな」


「おばあちゃん……」






やっぱ おばあちゃんがいると 気持ちの面で、かなり違う。


体も時間も余裕が出来て

自分の時間が持てる。



授業に置いてかれないように予習復習しなきゃ。






『琴羽、今年 受験だろ!』


『うん』


『歌子も亡くなって、受験じゃ 大変だんべ。

しばらくは おらがいっから琴羽は勉強に専念しろ。

いーか、私立は金かかっから ぜってーに都立に行くんだぞ!』


『はい!』


これが おばあちゃんとの約束。


勉強をがんばる


って……。



おばあちゃんとの約束を守るため


そして我が家と花音の保育園が近いとこ



それを満たした希望校は指折りの進学校。


そのため、がむしゃらに勉強した。



受かったときは努力が報われた嬉しさで何も考えてなかったけど


実際、通い出したら


あまりレベルの高さに置いてかれないように


もがき苦しむ日々。



高校生活、2ヶ月で もうすでに そんな状況。





そーいえば、おばあちゃん

あさってまで居るって…

今日は木曜日。
あさっては土曜日だし……。



ああ〜!

もうっ!


どーして、うまくいかないんだろ。


保育園は日曜日、休みだし

あたしが補修授業してる間

花音が心配。



やっぱ日曜日は断るしかないな……。







『ピンポーン』


と家のチャイムが鳴り


「はいはいー」


と おばあちゃんがぱたぱたと鳴らして玄関へ向かう足音が一階に響く。


「はい、どうも こんちは」


「こんにちは」


「琴羽のお友達かな。
どうぞ 上がって」


「いえ、たいした用事じゃないんで

これ琴羽ちゃんに渡しておいて欲しいんです」


おーっと!

この声は!

もう そんな時間!


集中してたから気づかなかった。



急いで玄関へと駆け出す。


「美緒ちゃん、ありがとう」


「いーえ」


あたしが授業を受けられなかったとき

日替りで数人の友達がノートを届けてくれる。


「いつも助かる!どーもね」


「お礼されるほどのことじゃないよー。

じゃあね」


「うん!また明日 学校で」


「バイバイ」


「バイバーイ」



元気いっぱいに手をふり

美緒ちゃんを見送った。






あたし 幸せ者だよ。

こんなに ありがたい親友 なかなかいない。


それなのに あたしは 親友に何を与えられるているんだろう。



やめよう。

考えても答えが出ないような気がする。


それに考えれば考えるほど心がむなしくなる。



今は 勉強!


勉強をがんばろう。











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