ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
今、最も人気のある女性4人組アイドルグループのハッピーソングが原曲となった、オルゴール調の曲が流れだした。




透き通るような音色が響き渡って
オリジナルのイメージをそのままで素晴らしいアレンジになっている。



流行りの曲に疎(うと)い あたしでも アイドルグループ かりきゅらむ☆は 花音がTVの前で一緒に歌って踊ってるし あたしも よく口ずさんでいるナンバーでもある。



かりきゅらむ☆の曲を聞いたら 口ずさみたくなる衝動にかられる。





曲って不思議なパワーを持つ。



曲に対する思いが違うだけで…





こんなにも感情が揺さぶられる。



「それではプリンセスの登場です。
拍手をお願い致します」


お姉さんの言葉が合図となり照明が少し落とされ

オルゴールの曲にのせて ステージ裾からライトが眩しいステージ中央に登場したのは


本日のプリンセス、ほのかちゃん。


ステージの幕は降りたままだったので

パール色の幕が ほのかちゃんの濃い青色のマーメイドドレスをより一層 際立たせた。



「本日は 私(わたくし)のために たくさんの方々がいらっしゃって下さり感激でいっぱいです。

今宵は忘れられない素敵な日にしましょう」




盛大な拍手に会場が包まれる。



いつもと違って、おっとり口調ではないのでびっくりした。


話し方も違うし、大人っぽいドレスもあって別人みたい。



そして 大きなケーキが運ばれてきた。


季節のフルーツがたっぷり のった生クリームのホールケーキに ロウソクが16本ある。



ステージから降りてきた ほのかちゃんがケーキの前に立つと



照明がさらに落ち ほぼ暗闇へと…。


ゆらゆらと暖かい灯火を放つロウソクの光だけ。




今度はHappy Birthday to Youの曲が流れた。





曲が終わると暖かいロウソクの灯火がゆっくりと消え


会場には割れんばかりの拍手が鳴り響き、

また照明が照らし出し、明るい会場に戻る。



「それでは乾杯用のグラスを1人1人 お持ちになって下さい。

未成年者は間違えてアルコールを選ばないで下さないね」


お姉さんの案内通り 飲み物を手にしようとしたが種類が豊富で悩む。


「やっぱ仕事の後のビールは たまんないねぇ!

くう〜」


「先生、まだ飲んでないのに もう出来上がってるみたいですぅ」


地理担当の中山先生は なぜか飲む前からビールの味を噛みしめていた。



「今、ジンジャーに はまってるんだけど ここからは一番遠いか…」


乃愛ちゃんが物欲しげな目で先にあるジンジャーを見つめる。


「アセロラないの?」


七海(ななみ)ちゃんも必死に探す。


「はにーれもん飲みたい!」


陽菜(ひな)ちゃんまで!


「次、いただくときに飲もうよ」


とりあえず 一番近くにあった りんごジュースを手に取る。




「かんぱーい」



と ほのかちゃんの合図で


「「「かんぱーいっ!!」」」



楽しい宴(うたげ)が始まった。



「うわっ!この りんごジュース超濃厚で美味しい!」


「こんな りんごジュース、初めて飲んだ!」



1つ1つのことに大げさに騒ぐ あたしたち。




そしてホール係の人が次々と入り 食欲をそそる良い香りを漂わせた、見たことない料理がどんどん運ばれてくる。


「お腹 ぺこぺこ〜」


「全種類 制覇 出来るかな」


あたしは あのバースデーケーキが どうしても食べたい!


月島ホテルのデザートはTV、雑誌とマスメディアに紹介されることが多く


生クリームが美味しいフルーツたっぷりデコレーションケーキ

最高級グレードの生クリーム使用パティシエ特製



と季節の果実を使ったフルーツは数に限りがあり、なかなかお目にかかれない。



そのケーキが今、目の前にあるのに食べないわけには いかない。




ケーキを見るとスタッフの人が切り分けて皿に盛り付けていた。


「あたし、あのケーキが食べたいから もらってくるね」


「あたしも食べたい!」


「あたしも〜」



やっぱ 女は甘い物に目がないよね。



ケーキが盛り付けられた お皿を受け取り、しみじみ ケーキを見つめる。



フルーツを贅沢にトッピング、

最高級グレード フレッシュ純生クリームと

新鮮な卵を使った スポンジ生地は しっとり ふわふわに

スポンジにサンドされたクリームは

いちごの果肉をたっぷり混ぜた ほのかな酸味とフルーティな香りが人気の いちご生クリーム。






一口 ケーキを口の中に入れると



「おいし〜!」


口の中に果物のフレッシュさ 生クリームの濃厚さがぶつかり合うことなく うまく調和される。




今度 このケーキを食べに来るときは

自分で稼いだ お金で食べに来るよ。


と心の中でケーキに ささやいた。











もう いっぱい食べて満足〜。


全部 美味しかったけど ラザニアが一番のお気に入り〜。






「本日は娘のために急がしいところお越しいただき、誠に ありがとうございました」


と ほのかちゃんの お父さん、水野 克彦氏が挨拶を始めた。


「私から娘、そして皆さま方に ささいなプレゼントをさせて下さい」




「プレゼントだって何だろうね」


「食べ物だったら もう食べきれなーい」


こんな ご馳走いただけて さらにプレゼントだなんて 恐縮しちゃう。




ライトが一気に消え、暗闇の世界が訪れる。




そしてステージ一点にライトアップされ



パール色の幕が静かに ゆっくり上がると



「「「きゃーーーーっ!!!」」」



と 大歓声の渦が巻き起こる。




えーー!


なんで!



どーして!!




この7人がっ!?





blessって音質に こだわりがあって TVの音楽番組には いっさい出演しないし、また めったなことじゃ コンサート、LIVEなんて しないからチケットは即日完売しちゃって

ファンクラブに入っててもチケットを入手するのは困難なのに!




そのblessが本当に、どーして!!




…もしかして

水野 克彦氏はblessが所属する大手レコード会社の株を多数 所有してるのかな…。



なーんて ただの憶測だけど。



ほのかちゃんがあまりの嬉しさに泣いてる!




ほのかちゃんだけじゃない、だってbless目当てでこの学校を選んで来たコばかりだし、


そのblessの生演奏、

夢が叶って感極まって泣いてるコが多数。





この人たちの演奏は、本当だったら何千円も支払わなければ 拝めないものなんだし


こんな貴重で贅沢な時間 楽しまないなんて もったいない!




アルパの詩音くんが優しく弦を弾くと



大熱狂は静まりかえる。




映画 ニュー シネマ パラダイスより“愛のテーマ”



アルパを弾く 詩音くんは優しく、楽しい笑顔をする。


また、繊細かつ大胆な演奏が素晴らしい。


ハープとは一味違う高音のキラキラした音に心が癒される。



ピアノ 奏斗さま

ヴァイオリン 響介、結弦(ゆづる)


と続きチェロ 清楽(きよら)



次々に楽器が重なり、曲に深みが増す。





あまりの音色の美しさに うっとりと聞き惚れてしまう。





次の曲は映画 サウンド オブ ミュージックより“私のお気に入り”



奏斗さまのソロから始まる。



「おっ!この曲って何かのCMで使われてるよな!
JRだっけ?」



クラシックに興味なさそうな新井くんも聞き入っている。





奏斗さま、

ピアノを弾くときは少年みたいな無邪気な表情をするんだな。






3曲目は映画 明日に向かって撃て!より“雨にぬれても”


ギターの澄音から始まる。



リーダーを見てると、若い頃のお父さんに似てるんだよね。


顔は全然 違うけど!


でも お父さん、若い頃は なかなかのイケメンだったもん。



今は お腹がぽーん って出てるけど

リーダーみたいに細長くて イケメン…

って言葉よりハンサムって言葉が合ってるかな。




お姫様になれたような夢みたいな時間。


幸せ〜。





「この曲も聞いたことある!」




新井くんまでも音楽の魅力



blessの虜(とりこ)になっている。





映画 ロミオとジュリエット


白い恋人たち


エデンの東




映画音楽からの計6曲となり

どの曲もTVCMに起用されたことがあるのでクラシックに馴染みのない あたしたち世代も楽しめる音楽となっていた。



きっと、リーダーが 難しいことを考えず

ただただ、無心で 音楽を楽しんで欲しいをコンセプトにしてるから

リーダーの心づかいなんだろう。






夢のような時間は魔法がとけるように

あっという間だった。









「……ぎさん!…なぎさん!
青柳さん!」


「……っへ!!」


「今、寝てたでしょ」


「…はぁ」


寝てたって よりも

blessの魔法に かかってたってゆーか

魔法が まだ とけきれない とゆーか


blessの余韻にひたってた。




「そろそろ、青柳さんが降りる駅…」


「……ぅん、どーも」


「これ、持って帰って」


「えっ!いーの?」


「家は、男ばかりで甘いの好きじゃないんだ」


「ありがと!」


「いや…、お礼をされても元はオレじゃないし…」
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