ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
お金に好かれた男 水野 克彦氏



パーティー参加費は無料なのに


あたしたち1人1人に おみやげまで下さった。



月島ホテル特製スイーツ


おばあちゃん、花音が超喜ぶに決まってる。



♪♪♪〜


車内アナウスが流れる。


先程、停車した駅の次は あたしの最寄り駅に到着する。



「そろそろだね、笛吹くん また明日」


「明日は土曜日で休み」


「えっ!
……ああ!」


あたしは、明日の 午前中のみ補修授業があって ゆっくり休んでられないから…

気が緩まない。


「そっ、そーだったね」


「明日、何かある?」


「いや…、何も」


「やっぱ、あるでしょ!」


あたし、すぐ顔に出るから…

まぁ、隠すようなことじゃないし


「明日は午前中のみ補修授業があって、あたしは参加するんです」


「…ふ〜ん」





♪♪♪〜

「ご乗車ありがとうございました。 お忘れ物、落し物ないよう もう一度ご確認ください」



「じゃあね」


と座席から立ち上がると


「オレも明日、補修授業 受ける」


「っえ!なんで!!」


「早く、降りないと乗り越す」


「ああっ…
はい!ばいばーい」




笛吹くん…





学年トップクラスのはずなのに






変なコ。






「ただいま〜」


「お帰りー。

あれ〜 もう終わったんけ?」


「未成年者ばかりだし、9時までやれば充分だよ」


ちょっと雑談してから帰ったから、時は10時ちょっと過ぎ。


花音は すやすや眠ってる頃。


「おばあちゃん、友達に おみやげまでいただいたの」


「ひえー、すっばらしい人だな」


「本当、すっばらしい人だよ」



今日は たくさんのイケメンに会った。



なかでも ほのかちゃんの お父さんは見た目は フツーの お父さんだけど謙虚な態度、器の大きさ 心の広さに しびれちゃった。



水野氏の書籍が読みたくなったから

あとで中古本屋さんに行こ。



「おばあちゃん、ケーキ食べていいよ」


「…寝る前に食うと太っからよ。
おらの歳になっと すぐ太るし糖尿病に なっちまうから明日 楽しみに食うべ」


「んじゃ冷蔵庫に入れるね」


「ちっと待て、何のケーキか確認すっぺ」


そーいえば、あたしがもらったケーキと笛吹くんから もらったケーキの重さが違うんだよね。


笛吹くんのが重たかった。



まず 1つ目の箱を開けると


純生クリームがたくさん使われたロールケーキが丸々一本も入っていた。


「きゃー!すごーい!!」


「いや、なんだ!こりゃ!!」


そして笛吹くんのケーキの箱を開けると


「なめらかプリン!しかも うこっけいの卵使用って書いてある!!」


「すんげー!4個も入ってら!!」


あたしと おばあちゃんは あまりの驚きと感激で それ以上、言葉が出なかった。








「琴羽が風呂 最後だ」


「ねえ あたし、布団 敷いてくの忘れてた!花音は?」


「2階でバカせがれと寝てら」


「そっか」






今日は弾けすぎて疲れちゃった。


髪が半乾きのまま布団に潜り込む。



花音がいないと部屋が広く感じた。




重い まぶたを閉じると深い眠りへと誘(いざな)われた。








「琴羽、今日は土曜日だぞ」


びくぅっ!!


やっぱ制服着てればバレるか。



「……今日は先生たちの好意で希望者は特別授業を受けられるの。

おばあちゃん、花音をよろしくね」


ウソじゃないし。

ただ、心配させないようにオブラートに包んだだけ。



「そっけ、勉強がんばれや」


「はーい」


おばあちゃんが作ってくれた おぎにりを急いで食す。





「行って来まーす」


「ああ、行ってこい」



おばあちゃん、何事も気にしない、おおっぴらな人だから疑いもなく信じてるよ〜。



ひえ〜
笑顔がひきつる。


逃げるように学校へと出かけた。




朝早くから太陽は さんさんと輝き、

太陽の明るさと暖かさに心が救われる。





赤い折り畳み自転車を駐輪場に置くが


あたしの他に人影も自転車も見当たらない。


うちの学校は指折りの進学校なだけあり、部活をする心の余裕がある人はそうそういない。


その辺は同じ人間なんだなぁって親近感がわく。



と そこへ見慣れない原動機付自転車(げんどうきつきじてんしゃ)が早速と登場した。



「笛吹くん!」


「おはよう」


と半ヘルメットを取りながら何食わぬ顔で挨拶をしてきた。


「…おはよう」


この人、本当に来た…。


「笛吹くんってバイク通学だったんだ」


「いや、うちの学校 原チャリの免許を取るのは禁止してる」


「えっ!?」


「これ、兄貴の おさがりなんだ。
16になったら絶対 免許を取って乗ってやるって、学校に秘密で取ったんだ。

いつもは筋トレがてら 普通にチャリ通。

ぶっちゃけ今日、初めて乗ったんだ」


制服姿で 今日、学校に このコで来たら秘密じゃないじゃん。


きっと、気持ちが押さえきれなかったんだろうね。



「あれ、昇降口が開いてない」


休日は来賓客用口しか開いてないのか。



さっき通り越して昇降口に来たのに…

めんどいけど 仕方ない。






「おはようございます」


「おはよう」


本日の事務員はシルバーのお父さん、徳山さんだった。


「はいはいはい、補修授業をするコたちね」


「お世話になります」


「そこのスリッパ 使かっちゃいな」


「ありがとうございます」


「図書室だって、図書室を利用するから図書室に行っちゃって」


「…はい」



と徳山さんから図書室のカギを預かった。





徳山さん 独特の世界観で個性が強いことが わかった。






「そっちに行くと音楽室」


「はいー」


あたしって ホントに方向音痴。


図書室は めったに利用しないし音楽も選択してないから まだ 学校の構造を理解してない。


笛吹くんが居てくれて助かった。




廊下を突き進むと 図書室と書かれたドアにたどり着く。




図書室のドアを開けると本の香りがした。



この香りって なんだか落ち着く。



本を読みたい!


って気持ちはあるんだけど勉強でいっぱい いっぱいで そこまで余裕がない。




相澤先生が数人でって おっしゃってたけど やっぱり図書室にも人影がない。




とりあえず 一番 近くにある椅子に腰かけた。




笛吹くんは このテーブルから すぐ近くにある歴史コーナーで、三國志の書籍を見ていた。



と そこへ



『ガラガラ』


と優しくドアを開けたのは


「ふあ〜、ねむー」



!!!!!


寝癖で髪が乱れていても、きれいな顔立ちが目立つ。


「詩音くんっ!!」


やばっ!

図書室で大きな声 出しちゃった!


「何かあったのか?」


詩音くんの後から入って来たのは奏斗さまだった。


「何もー。

奏斗くんと2人っきりじゃなくて良かった!

女の子いたよー」



っえ!!

あたし、かわいくないから…。


「……女」


詩音くんがハードル上げるようなことするから


奏斗さまが眉間に しわ寄せて あたしを見てるじゃない!

せっかく きれいな顔で産まれてきたのが台無し…。




「イエーイ!
女の子の隣の席、取った!」



「へっ!?」



どきぃっ!!!




すっごい きれいな顔が すぐ真横にっ!!


「よろしくね」


「……っよろしくお願いします」



あまりの美しさに直視 出来ない!!


思わず下をうつ向いた。




やばい!!


心臓があり得ないぐらい どきどきしてる!!


顔も熱すぎだし!!






そーだよ!
blessって あたしと おんなじで早退、遅刻、欠席の常習犯。


「奏斗くんも ここに座りなよ」


えーー!!

奏斗さままで来たら心臓、もたないって!!


「……ああ」


そんなっ!!


奏斗さまは詩音くんの前、

あたしの左斜め前の席に座った。



心臓が張り裂けそう…。


この場から逃げ出したい。



「青柳さん、誰が来たの?」


助かったー!

なんとか話せる人が来てくれたー!



「なんだ、blessのお2人じゃないですか。
おはようございます」


「おはよー」


「…どーも」




………。

…あれ


笛吹くんと奏斗さまが見つめ合ってる…。


違う!
日本語の表現がおかしい。


にらみ合ってるが正しい。



……気のせい


うん、気のせい!

火花が散ってるはずがない。


「笛吹くん、立ってるのも何だし、ここに座って!」



この空間に 誰でもいいから とにかく居て欲しかった。


「…うん」



あたしの前に笛吹くんが座り、4人掛かりのテーブルが1つ ふさがった


思うんだけどテーブルは いっぱいあるんだし

1人につき 1テーブルをエリアにしようよ。



「ふあ!
寝不足でさ…。

昨日、ミニLIVEやったんだよ」


知ってます!

その場にいましたから


「久しぶりに人前で披露したら気持ちが高ぶって、

興奮が覚めなくて あまり寝てない…

ふあー」


超一流アーティストも同じ人間なんだな…


少し、心が落ち着いたかも…。



『ガラ… ガラ…』


と図書室のドアをゆっくり開けたのは


「はいはいはい、3人って伺ってたけど…

まあ、いい」


事務員の徳山さんだった。


「数学、英語、国語の3教科の自習をして下さい。

お昼にノートを回収します。
それじゃ」
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